第8話006「待ち伏せ」



 次の日のお昼休み――校舎の裏にある中庭でエマと二人で昼食を食べているときに俺は昨日、両親へ進路についての話をしたこと、そして、高等学院へ行けることになったことを告げた。すると、



「ほ、本当に……?」 

「ああ」

「ホントに、ホントの、ホントの…………本当に?」

「だから、本当だって!!」

「きゃああああーーーーーー!! ホントに本当なのね、クライブ! クライブも……王都の高等学院へ行けるのね! やったぁぁーーーーー!!! モー! まったくもぅーー!!」


 エマが大はしゃぎで俺の両手を掴んではブンブンと上下に振ってメチャメチャ喜んでくれた。そんなエマの想像以上に喜ぶ姿を見て俺は改めて『エマはクライブにとっての一番の親友だな』と自覚した。


「じゃ、じゃあ、来年の春になったら王都の高等学院……センティエレメスト王立高等学院へ一緒に行けるのね!」

「ああ、これからも……よろしくな、エマ」

「フ、フン! しょうがないわねー! あんたは私がこれからも面倒見てあげるわよ! まったくもうー!!」


 そんなお姉さん肌を全面に押し出すエマに俺は苦笑いをしつつ、改めて高等学院へ進学できたことの喜びを噛みしめた。


 話も一段落した後、


「ちょっといい? クライブ……」

「ん? 何だ?」

「魔力縛りは……どうなの? 大丈夫なの?」

「ん? ああ……」


 そう……俺は『魔力縛り』という病気を持っている。『魔力縛り』は持っても1~2年と言われているため、エマはそのことについて心配しているようだ。


 しかし、俺はあの『長髪男』と会話をした夢を見て以来、体調は問題なかった。あの時はただの夢かと思ったがもしかしたら本当にあった出来事で『魔力縛り』は治っているかもしれないとも思い始めていた。しかし、ちゃんと治ったという根拠はないのではっきりとエマに告げることはできなかった。


「今のところは特に体調は問題ないよ。この先どうなるかはわからないけど、でも、俺は『魔力縛り』の治療法を王都に行って探そうと思っている」

「そうなんだ……。うん、いいかも! 王都ならもしかしたら治療法もみつかるかもしれないしね! あたしも協力する!」

「えっ?! エマも!」

「もちろん! 感謝しなさい!」

「あ、ありがとう……」

「フン! あたし達、友達なんだから当然よ!」


 そう言って、俺の目をまっすぐに見ながらエマは力強く言葉を吐く。


 ホントに良い奴だよな……エマは。


 俺はそんなことを心で呟きながら母さんが作ってもらった野菜とハムが挟まれたサンドイッチを頬張る。


「ところでさ、クライブ? もう一つ気になることがあるんだけど……あんた、ザボンとはどうなってんの?」

「どうって?」

「何か、イジメられてない?」

「いや、特に何もないよ」

「ウソ! だって昨日の朝、あいつらあんたのことずっと睨んでいたじゃない!」

「ま、まあ……」

「何かあったんでしょ?! 話しなさいよ!」


 俺は一昨日、エマと会う前にザボンと会ったこと、喧嘩を売られたが逆にやり返したことを告げる。


「ちょっ?! あ、あんた、そんなことしたのっ! 弱いくせに!」

「しょうがないだろ? これまでのことに腹が立ったんだからっ!!」

「で、でも! ザボンたち、どう見てもまだ根に持ってるじゃない!!」

「そんなこと言っても……すでにやってしまったことだし、別にまた来ても同じようにやり返せばいいだろ?」

「あんた……ザボンのお父さんのこと知ってるでしょ?」

「え? ザボンの……父親?」

「何で知らないフリしてるの! あいつのお父さんはこのアスティカ村の村長じゃない!!」

「え? 村長……だとっ?!」


 俺はクライブの記憶をググッてみた。すると、確かにザボンはこの村の村長であるようだ。


「まあ、でも、子供の喧嘩に親が出てくるなんてことないだろ?」

「バカね、あんた。あの目に入れても痛くないって自分の子供のことを人前で思いっきり自慢する親よ? 子供の喧嘩に出てくる可能性しかないじゃない!」

「フン。別に出てきたところで領主様に報告すればいいだろ?」

「それができたら苦労しないわよ! あのね~、領主様にそんな簡単に会うことなんてできるわけないじゃない! だから、みんな、ザボンには目を付けられないようにしてるんだよっ?!」


 クライブの記憶を見ても、確かにエマが言ったことは知っていたらしい。


 そんなこと今頃言われてもな~……今さらだっての。


「わ、わかったよ。とりあえず……ザボンとはもう関わらないように気を付けるよ」

「そうよ! そうしなさい! 何かあったらあたしもできるだけ助けてあげるから!」

「えっ?! い、いいよ」


 いやいや、そんなの……エマが巻き込まれでもしたら大変だっつーの。


「うっさいわねー! 大丈夫よ。私がうまくはぐらかしてあげるから! あんたは私にただ頼ればいいのよ、いい? わかった? クライブ!」

「わ、わかりました……」


 エマのあまりの勢いに思わず、了承した俺だった。


 そんな話をしたその日の帰り道……俺はエマの予想どおり、目を付けられたザボンに早速、待ち伏せされた。


 そして、この一件がのちに…………俺の今後の人生を決める『きっかけ』となるのだが、その時の俺には知る由もなかった。


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