第6話004「クライブの夢に向けて」



「それでは、今日はこの世界と国内の歴史についてのまとめを行います」



 そう言って、担任は黒板にカツカツと歴史年表のようなものをどんどん書き込んでいく。


 そこには、この国の建国から諸外国とのつながり、また、この世界の成り立ちなどを書き連ねていた。まず、この世界が最初にできたのは今から約一万年前の頃らしく、この世界の人々が崇めている神……『ヴィセビア神』によって世界と人間、そして、その他の生物を創り出したらしい。


 ちなみにその『ヴィセビア神』の信仰は『ヴィセビア教』となり、その信者はこの世界の人口のおよそ七割を占めているとのこと。そして、ほとんどの国がこの『ヴィセビア教』を国教としているようでこの国も『ヴィセビア教』は国教らしい。


 キリ○ト教もビックリの圧倒的信者数である。


 そして、このヴィセビア神が世界と生物を創ってから五千年後――進化した人間が文明を起こし、他の生物の中でも一番の発展を遂げ、今日こんにちに至るとの話だった。


 いや、実に面白い!


 この世界がヴィセビア神という一つの神によって創造されたという話が、どこまでが本当でどこからが作り話なのかはわからない……だが、実に興味深い話だ。クライブが『世界を知りたい』と思っていたこともよくわかる。


 それにしても、七歳から九歳までが通う初等学院だから大したことは教えていないと思っていたが、予想以上にレベルの高い内容だった。こんなの皆、理解しながら勉強しているの……か? と、周囲を見渡してみるとほとんどが居眠りをしており、起きて授業をしっかりと聞いているのはエマともう一人の最上級生のメガネの女の子だけだった。


 それでも先生は生徒の大半が寝ていても特に怒ろうとしない。なぜ、怒らないのか一瞬不思議に思った時、クライブの記憶からその『答え』が浮かび上がった。


「なるほど……『平民の初等学院だから』か」


 つまり、七歳から九歳の子供が理解できるようなレベルではない授業を教えているのはいわゆる『形式的なもの』だから。もっと言うと『平民は別に歴史など生活には必要がないと思っているから』といったところか。実際、そうなのだろう。


 だから、生徒も先生が授業していても気にせず眠るし、先生は先生で、あくまで『形式的』に授業をしているだけなので生徒が聞いても聞いていなくても給料分の仕事をこなすだけ、といった感じなのだろう。


 実際、この初等学院……特に平民の初等学院では『歴史』や『計算』といった勉強よりも『生活に役に立つ授業』に力を入れているようだ。それ以外だと、生活に必要最低限の『文字の読み書き』くらいか。


 ちなみに『魔法』の授業もあるようだが、平民は貴族に比べると魔力量が圧倒的に少ないこともある為、『魔法』が使えなくても日常生活に支障はない。その為、『魔法』の授業をほとんど聞いていないのが実情である。俺からすれば勿体ない事だと思うが、この世界の平民にとってはこれが常識なのだ。


 これがクライブの記憶で浮かび上がった……『平民の初等学院だから』という答えだ。


 しかし、実際に授業を真剣に聞いているエマとメガネっ子の二人はどうしてそこまで熱心に授業を聞いているのだろうと疑問に感じる。すると、また、クライブの記憶から『答え』が返ってきた。


「何っ?! エマとメガネっ子……シエラは王都の高等学院に進学するだとっ!!」


 クライブの記憶によると、エマとシエラ……『シエラ・A・コーネリア』はこの村で一・二を争う『秀才』らしく、これまでのサラ先生の授業も余裕でついていけてるらしい。また、二人の家はこの村でも裕福なほうの家庭なので、多少無理する部分はあるにしても王都の高等学院へ行かせられないことはないらしい。


「すごいな、エマ。あと、あのメガネっ子……シエラも」


 しかし、同時にクライブの記憶から『僕も二人に負けないくらい勉強好きだし、授業もついていけてるんだけどな……』といった二人のことを羨ましく思う感情が見えた。


「まあ、そう思うのも無理ないよな……」


 クライブのそんな密かな想いに俺は一人同情した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「なあ、エマ。お前は王都の高等学院へ進学するんだよな?」

「なっ! なななな、なによ、突然っ?!」



――お昼休み、いつものように教室でエマと弁当を食べていた。


 間宮義人の頃、幼なじみという存在はおらず少し憧れたこともあったので今、こうやって幼なじみ……しかも女の子の幼なじみとお昼を食べれていることに気恥ずかしさを感じつつも思いが叶ったことに俺はテンションが高かった。


 そんなテンション高めの俺はさっきから気になっていた『王都の高等学院』についてエマに話を聞いてみた。


「ま、まあね。その為にあたしは一生懸命勉強してるもん!」

「すごいね、エマは」

「そ、そそそ、それほどでもないわよ! ま、まったくー!」


 頬を朱色に染めながら強気な態度で返事をするエマは一度、大きく深呼吸して改めて俺に尋ねる。


「ク、クライブ……どうしてそんなこと……聞くの?」


 エマが真剣な目で問いかけられた俺は素直に想いを告げる。


「俺にも……高等学院に行くことは可能かな、て……」

「クライブ……」


 エマは俺の言葉に返事を窮する。


「そうね……そうよね。クライブは勉強好きだもんね。でも……」

「ああ、わかってる。ウチにはそんなお金は無いからな」

「……クライブ」

「でもさ、お金が無くても高等学院へ入学できる方法とかないのかな? エマはそういう話は知らない?」

「そ、そうね……あるにはあるけど……それって『推薦枠』よ」

「推薦枠……か」


 この『推薦枠』とはクライブも事前に調べていたようで知っていた。


 これは『お金は無いが才能のある子』に対して、貴族が資金援助をするものである。別にボランティアのようなものではなく、貴族が『投資目的』で援助するものだ。つまり、『推薦枠』で進学した子供はその後、その投資した貴族の元に行き、そこで働くこととなる……いわゆる『飼われる』というやつだ。


 しかし、高等学院へは確かにいけるので一度クライブもこの『推薦枠』を考えたことがあった……が、


「そう。『推薦枠』ってのは貴族やそれ以上の身分の人からお金を援助してもらえるものだけど代償も大きいわ。あんただってそれで『推薦枠』は断念したじゃない?」

「……ああ」


 やっぱ、そうだよな。『推薦枠』以外でお金を使わずに進学できるルートなんてないよな。


 しょうがない。高等学院は諦めよう。


 高等学院なんて行かなくても自分で動いて外でいろいろと勉強や経験はできるはずだしな。クライブだって『高等学院へ行くこと』が夢ではなく『見聞を広めたい』というのが夢のようだし……。


「ありがとう、エマ! 踏ん切りついたよ」

「そ、そう? 気持ちはわかるけどこればっかりは私には何も……」

「気にしないでくれ。これからは俺は俺でいろいろと勉強していくつもりだからさ」

「……そっか、わかった。あ、あのね、クライブ、あたし……」

「ん?」


 カラン、カラン、カラン、カラン……。


 エマが何かを言いかけたその時、タイミング良く(悪く?)お昼休みの終わる鐘がなった。


「何? エマ?」

「ううん、何でもない」


 エマはそう言うと、さっさと自分の席に戻っていった。


 午後の授業中、俺は卒業後の進路についてずっと考えを巡らせていた。


 そして、一つの結論に達した俺は、その日の夜、俺は両親に卒業後の進路について話をした。


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