第5話003「学校へいこう」



「いってきます」



 次の日、俺は学校へと向かった。


 この村にある学校の名は『クロムウェル領初等学院』といい、クライブはそこで最上級生だった。


 というのも、この国……センティエレメスト王国では七歳から九歳までは『初等学院』へ通うことになっているらしい。義務教育のようなものだ。そして、クライブは九歳なので学院では最上級生になる。


「卒業式は今月……か。エライ急な話だな。まあ、転生したからだけど」


 そう、俺は最上級生で今月卒業式を控えている身である。


 とはいえ、クライブの記憶があるとはいえ、転生してきたばかりなので名残惜しさなどは感じない。まあ、それはそうだろう。


 俺は学校へ向かいながら、クライブの記憶を元にこの世界のことについて考えてみる。


 まず、一つ気になった……というより驚いたのがこの世界の『暦』である。


 この世界では名称は異なるが一年が365日で、ひと月が30日ないし31日となっている。そう……地球と同じなのだ。ちなみに時間も24時間で一日経過するものなのでこれまた地球と同じだ。


「……つまり、この星の自転周期と太陽との公転周期が地球と同じということか。ていうか、太陽ってあの地球にいた頃の太陽と一緒なのか?」


 まあ、よくはわからんがおそらく『太陽に似たもの』があって、それがこの世界の昼夜の顔を作っているのではないかと考えられる。


「もし、地球の時の太陽がこの世界に存在するのならば、それって地球以外の生き物が住む星があったことになるからな。そんな星は発見されていなかったのだから恐らく『太陽に似たもの』があると考えるのが自然だろう……」


 そんなことを考えながら歩いているとすぐに学校についた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あっ! クライブ、おはよう!」



 教室に入ると、すぐにエマが声をかけてきた。


「おはよう、エマ」


 そうして自分の席へと向かうと教室の後ろには昨日、痛い目に合わせた三人が俺のほうを睨んでいるが特に何かを言ったり仕掛けたりしてくることはないようだ。


 とりあえず、俺はそいつらのことは無視してさっさと席に着く。すると、


「ちょ、ちょっと、クライブ!」

「ん? 何?」


 慌てたようにエマが俺に小声で話かける。


「あいつらがいつもと雰囲気違うんだけど……ザボンたちと何かあったの?!」

「……いや、別に?」

「ウソ! 絶対にウソっ!」

「何もないって」

「ぜーったいウソね! まったくー! あんたは本当昔から……うんたらかんたら」

「……」


 俺はエマの説教が始まったので、席に着き、教科書を広げた。授業が始まる前にいろいろとここで使われている教科書について目を通しておきたかったからだ。


「ていうか、よく考えたら教科書見ればいろいろ情報収集できたな」


 俺は一人ボソボソいいながらエマの説教を流していると、


 ゴン!


 エマが俺にゲンコツをお見舞いした。


「痛っ……な、なんだよっ?!」

「あんた人が話してんのに何、無視してんのよっ!!」

「あ、いや、話が長くなりそうだな~……て」

「な、何を~っ!!」


 エマの声がヒートアップしかけたその時、


「はい! 授業始めるわよー。席ついてー」


 このクラスの担任である『サラ・F・ゴードン先生』が入ってきた……先生、グッジョブ!


「うぅ~~クライブ! 話はまだ終わってないんだからね! 後で顔貸しなさい! まったく~っ!」

「……」


 そう言って、顔を真っ赤にしたエマが自分の席へと戻っていく。


 顔貸せ……て、ヤンキーかよ!


 そんな俺とエマの会話をサンボたちはまだずっと睨み続けていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「は~い、皆さん! 今日は授業に入る前に最上級生の子たちに報告がありますので少し時間をくださいねー」



 サラ先生はそう言うと、黒板に『来週の火の日まで!』という文字を書く。


 ちなみに、最上級生は俺を含めエマとザボン、そしてザボンの舎弟の二人とメガネの女の子の五人だ。このクラスには俺たち最上級生の他に、八歳の子が二人、七歳の子が三人おり、計十人が同じクラスで授業を受けている。まるで離島の小学校のようだ。


 あと、『火の日』……というのはこの世界の『曜日』のことで、この曜日の名前の由来はこの世界の『魔力属性』からきている。


 始まりは『火属性』である『火の日』から始まり、次が『水属性』の『水の日』、そして『土属性の土の日』『風属性の風の日』ときて、地球でいう週末の土曜日が『光属性の光の日』で、週の最後である日曜日が『闇属性の闇の日』と……『一週間は6日』で構成されている。なので、先生が黒板に書いた『来週の火の日まで!』というのは来週の初めのことを指している。


 また、この『魔力属性』は個人の名前にも『ミドルネーム』として使われている。


 例えば、クライブであれば『クライブ・W・フォートライト』なので風属性『ウィンド《Wind》』の英語表記の頭文字『W』がつく。どうやらこの世界では『魔力』はかなり重要度を占めているらしい。


 ちなみに魔力属性の英語表記は『火属性=フレイム《Flame》』『水属性=アクア《Aqua》』『土属性=ストーン《Stone》』『風属性=ウィンド《Wind》』『光属性=フォトン《Photon》』『闇属性=ダークマトン《DarkMatton》』となる。


 というかこの世界……実に謎なのが今の魔力属性の『英語表記』もそうだが、『一年が365日』だったり、『一日が24時間』だったりと『地球との類似点』があまりにも多い。


 自分がこの世界に転生したのもそれと関係があるのか?


 謎は尽きないが、これもまた今は答えが出ない問題なのでクライブはすぐに考えることを辞め、先生の話に耳を傾ける。


「それでは最上級生の皆さん! 今月末に行われる『卒業式』の後の進路をどうするのか親御さんと相談してきてくださいね~。そして、来週の『火の日』に私に報告してください。では、授業を始めます」


 サラ先生は連絡事項をさっさと告げるとすぐに授業を始めた。


 プロだな、こいつ。


 それにしても『進路』とは何だろう?


 そんな疑問が湧いたと同時に、クライブの記憶から『進路』に関する情報が浮かび上がった。


「なるほど。『進学』か『家業』……か」


 浮かび上がった情報では、初等学校を卒業すると進学する者と家業を継ぐものに分かれる。もし、家業を継ぐ場合、男の子であれば父親の、女の子であれば母親の手伝いを通しての花嫁修業みたいなものをする。


 ちなみに、これは『平民』の場合の話であり、貴族や王族の場合は『進学』しかない。まあ、身分が高い者はそれなりの教育は必要だろうから当然といえば当然だろう。


 俺……クライブもまた『平民』なので卒業後は『進学』か『家業』のどちらかを選ばなきゃいけないのだが、普通……平民でわざわざ『進学』を選ぶのは少ない。


 理由はいろいろあるが、一番の理由は『お金』の問題だ。


 平民は文字の読み書きさえできれば生活に問題はないと思っているので、国も初等学院までは無料タダで通わせてくれる。なんと教科書まで無料タダなのだ。


 しかし『高等学院』になるとすべて自腹となる(まあ、初等学院が無料というだけでも凄いと思うが)。授業料は勿論、教科書代から生活費といったものもあるのでもの凄く金がかかる。その為、普通の平民は初等学院までで学業は終わり、その後は家業を継ぐのが一般的だ。


 ただし、一部のお金持ちの平民は『見栄』と『人脈づくり』も兼ねて子供を高等学院へと進学させる。実際、そういった一部のお金持ちの平民の子供の将来は下級貴族に近い豊かな暮らしをしているらしい。


 ちなみに『高等学院』はセンティエレメスト王国の中心都市で王族が住む宮殿もある『王都センティス』に建立されている。学院名は『センティエレメスト王立高等学院』……わかりやすくて何よりの校名である。


 それにしても、


「クライブの奴、九歳の割にはかなり知識が豊富だよな。よっぽど勉強が好きだったと見える……フフ」


 俺はクライブが自分間宮義人と似ている部分があることに少し嬉しく感じていると、ふいにクライブの『夢』のようなイメージが映し出された。


「……クライブは……高等学院に『進学』……したかったのか?」


 映し出されたイメージには、王都の高等学院へ進学し『この世界のいろんなことを勉強していろんな事を学びたい!』というワクワクした想いが広がっていた。


 しかし、そんな『ワクワクした想い』と同時に、『でも、ウチにはそんなお金なんてないから進学なんて……ましてや王都の高等学院なんて絶対に……無理だ』という『絶対的な現実に打ちひしがれる想い』が伝わってくる。確かに、クライブの家は裕福な家庭ではない。いや、むしろ貧乏な家庭だ。そんな家庭から進学はおろか、『王都の高等学院』など絶対に無理だろう。


 だが、俺も小さい頃、純粋に勉強が好きでいろんなことを吸収すると世界がどんどん広がっていったことを知ったとき、クライブのようにとてもワクワクした気分になったことを思い出す。それを考えるとクライブの気持ちについ感情移入してしまう。


「王都の高等学院への進学……か」


 この時、俺は『クライブの夢を実現したい』と思い始めていた。


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