第4話002「クソガキどもと可愛い幼なじみ」



「お、おい……クライブ、お前、今、何つった?」

「やってみろ、クソガキども」



 俺の目の前にいるデブのリクエストに応えて、もう一度、同じセリフ(棒)で言ってやった。


 ちなみにコイツがこの三人の中でのリーダー格だったので俺は最初からこいつを狙っていた。三人以上の集団の場合、リーダー格を最初に叩くのが『セオリー』であることは映画やドラマなどでは常識だ。


 それに、いくら俺が見た目、体が小さくても中身は『二十歳』なので、いくら自分より体格がある三人に凄まれても、ただの『お子ちゃま』にしか見えないのでビビることなど全くなかった。


 ピキッ!


 デブのリクエストに応えてやったというのに、デブの眉間がピクピクして顔を真っ赤にしている。ちなみに後ろの二人は俺から出た言葉に若干、引いていた。『命知らず』とでも思っていたのだろう。


「て、てめえ! この野郎~!!!」


 デブは大きな声を出して俺に殴りかかってきた……が、俺はヒョイっとけると同時に足を出してデブを転ばせた。


「お、おわっ?!」


 ドタ……と前に倒れるデブ。そして、俺はそのデブが倒れたところでお腹に蹴りを入れる。


「うごっ?! ゲ、ゲホ、ゲホ……」

「「ザ、ザボンくん!」」


 ザボンというこのデブは倒れるや否や、俺から腹を蹴られるなんて思っていなかったようでビックリした顔を浮かべながら腹を必死に抑えている。俺はそんなザボンにお構いなしに抑えている手ごと蹴りに蹴りまくった。


「ゴ、ゴホ、ゴホ……! も、もう……やめ……」

「……」


 俺は無言で無表情でザボンのお腹を蹴り続ける。


「「や、やめろよ、クライブ……! や、やや、やり過ぎだよ!」」


 二人が声を震わせながら俺に声をかける。


「あ? なんだ? お前らも俺に……蹴られたいのか?」


 ギロッ。


「「ひぃっ!」」


 二人が俺の言葉と視線に軽い悲鳴を上げる。


 これまでのクライブなら反抗したり、ましてや、こんな人を蹴るなんてことするような子じゃなかったのだろう。舐められていたのだろう。俺を止めようとする二人は以前のクライブとは完全に違う俺の態度にビビっていた。


 俺は蹴り続けていたザボンから一旦離れる。すると二人がザボンのところに駆け寄り声をかけるがザボンは泣きじゃくり完全に戦意喪失していた。


 そんなザボンを見た二人は真っ青になりガクガク震えているが俺は冷めた目で二人を睨みながら容赦ない言葉をぶつける。


「ていうか、お前ら俺がこれまで手を出さないからって好き放題やってたよな? 俺が今よりも殴られて『やめて』って頼んでもやめなかったよな? むしろ、ゲラゲラ笑いながら俺のことを平気でボコボコにしてたよな?」

「「あ……いや……その……クライブは『忌み子』だから……」」

「『忌み子』だからイジメていいだなんて……ふざけんじゃねぇっ!!」

「「ご、ごごごご、ごめんなさいぃぃーーーーっ!!」」


 二人はもう完全にビビっており、ザボンに関しては顔を俯けにして泣きじゃくったままだ。


 自分が『やる側』のときは相手の気持ちを考えないくせに自分が『やられる側』になった途端、被害者面をする。これは、子供でも大人でも一緒だと俺は思っている……持論だ。


 そんな、こいつらを見ていると、ただただムカついて仕方ない。


 とは言え、確かにここは地球とは違う異世界だ。それに俺は『忌み子』という世界の嫌われ者であり『忌み子』をイジメるのは常識……みたいな『クソ常識』がまかり通る世界だ。子供のこいつらも悪気なく、ただ『忌み子』をイジメるのは当たり前という常識なのだろう。


 しかし、そんな常識俺には到底受け入れられない。当たり前だ。


 じゃあ、どうするか?


 本当ならいろいろと考えたいところだが今はとりあえずこの場を何とかしなきゃならない。


 ということで、俺はこいつらに脅しをかけて二度と関わらないようにする。


「本当ならお前ら二人ともこいつと同じように蹴り倒したいところだが……今回は許してやる」

「「えっ!?」」

「そのかわり、今後、俺に二度と関わるんじゃねー。もし、またちょっかい出してきたらその時は……わかるな?」

「「は、ははは、はいぃぃぃぃ~~~!!!! すみませんでした~~~~~!!!!!」」


 二人は目に涙を浮かべながら『助かった~』という顔をして全力で謝った後、二人でザボンを担いでそそくさと去っていった。


「フン、朝っぱらから嫌な気分にさせやがって……」


 そんなわけで俺は、とりあえず情報収集に向けて再び歩き出す。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「クライブ~!」



 しばらく歩いていると後ろから声をかけられた。


 振り向くと、赤髪ツインテールの可愛らしい女の子が俺に駆け寄ってくるのが見える。


「……エマ」


 その子の名は『エマ・F・キャロライン』。


 クライブの家の近所の子でクライブとは幼なじみらしい。


「昨日、学校から帰った途端倒れこんだって聞いてお見舞いに行ったんだよ! もう大丈夫なの?!」

「あ、ああ。大丈夫だよ、エマ。心配かけてゴメン」

「そう……よかった。まったく! クライブは男の子のくせに弱っちいんだからもっと鍛えないとダメだよ、まったく! これだからクライブはほっとけないのよ! まったく! クライブは本当にまったくー!」

「あ、ああ……ごめん」


 エマはどうやら昨日俺が倒れこんだことを知っていたらしく心配していたようだが、元気になったと伝えた途端、いつもの『姉御肌』の態度と『まったくー!』の口癖でダーと一気に説教してくる。


 ちなみに、エマは俺が『魔力縛り』に罹った『忌み子』であることはもちろん知っている……が、それでも昔と変わらず接してくれる。


 以前、クライブが『忌み子』と皆に知られてしばらくした後、『忌み子』と知っても昔と変わらず接してくる彼女に『どうして忌み子の自分を嫌わないのか』ということを聞いたことがあったらしい。するとその時、エマは『忌み子だからってクライブであることに変わりはないじゃないっ! 何言ってんのよ、まったくー!』といつもの口癖を添えながらそんなセリフを堂々と言ってのけた。


 そして、それ以来、クライブは彼女のことを一番信頼しており、同時に一番の親友とも思っている。


「??」

「……どうした?」

「どうした、じゃないわよ! あんた、何なの……その言葉遣い? 大人ぶってるつもり?」

「え?」

「倒れる前と今じゃ明らかに言葉遣いが違うもの。あと雰囲気とかも……」

「こ、これは、その……」


 これはまずい。


 クライブの記憶は探ることはできても、俺がこれまで相手に対してどう接していたのかまではわからなかったのだ。


 もしかしたら、朝の両親の戸惑い気味の態度はこれが原因だったのかもしれん……いや、間違いないだろう。


 さて、どうしたものか?


 どうやって誤魔化そう?


 いっそ『転生者』とでも言ったほうがいいか?


 いや、それだと意味不明過ぎるし、こんな子供が理解できるわけがない。


 そうして、俺が彼女にどう答えたらいいかと悩んでいると、逆にエマから、


「『魔力縛り』が原因ね、きっと」

「え?」


 俺が答える前にエマは自分で『魔力縛り』が原因だろうと呟く。俺はそのエマの持論に全力で乗っかった。


「う、うん。た、たぶん、そうなのかも……ハハハ」


 まあ、一応、『魔力縛り』が転生の要因になっていることは確かなので、その答えは一応間違ってはいないはずである。ていうか、そういうことにした。


「あ、で、でも、今は体調は良いんだ! だから、こうして散歩もできているわけで……」

「そ、そっか! そうだよね! うん……そうだよ、良くなっているから散歩できるんだもんね!」

「う、うん!」

「で、でも、クライブ……あまり無理しちゃダメだよ。そうだ! あ、あたしが、クライブの手を引っ張って、散歩に連れて行ってあげても……いいわよ?」


 そう言ってモジモジと顔を赤くしながら手を差し出してきたエマは、さっきの姉御肌の態度がウソのような乙女な態度を見せる。


「ありがとう。でも、今日はもう家に戻るよ。ちょっと疲れちゃったしね……」

「そ、そう……そ、そうよね。さ、さすがに病み上がりだしね。そうだよね! あはははは……」


 そう言ってエマの誘いを断ると、エマは赤い顔をさらに紅潮させて思いっきり取り乱しながら若干、落ち込んでいるように見えた。


 あ、もしかしたらエマは病み上がりの俺に気を遣って……。


 これはいかん。


 せっかくのエマの……少女の厚意を無駄にしてはいけない。


「あ、でも、ちょっと疲れちゃったから、できれば家まで……引っ張っていってもらえる、エマ?」

「ふぁっ!? しょ、しょしょしょ、しょうがないわねー! ま、まったくーっ! クライブはこれだからまったくー!!…………エヘ」


 エマは『声を弾ませながら悪態をつく』という高度な喜怒哀楽を披露しつつ、俺の手をしっかり握ってグイグイ引っ張っていってくれた。


 どうにか機嫌がよくなって何よりである。


 そうして俺は、それなりに充実した一日を過ごした。


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