第一章「異世界カースト成り上がり ―準備編―」

第3話001「クライブの記憶」



――次の日



 俺の体は昨日に比べてかなり楽になっていた。楽になったどころか、かなり調子が良い。昨日、夢に出てきた謎の長髪男の言っていたとおりなら俺の体は治った……のか?


「いや、そんなの……今は確かめようがない、か」


 俺はとりあえず考えるのを止めてベッドから出ると居間へと向かった。すると、ちょうど朝食の準備をしていた母親をみつけ声をかける。


「おはよう、母さん」

「!?」


 母親である『メリッサ・F・フォートライト』は何故か驚いた顔で俺を見つめた後、ハッとして挨拶を返す。


「お、おはよう、クライブ。随分、顔色がよくなったみたいね。熱も下がったみたいだし……よかったわ」


 昨日、一日中静かに寝ていた俺の体はすっかり良くなっていた。


「おお、おはよう、クライブ! 元気になったみたいだな、心配したぞ」

「父さん、おはよう。もう大丈夫だよ」

「!? お、おう……」

「?」


 な、なんだ?


 母親のメリッサだけでなく、今度は父親の『ラルフ・S・フォートライト』も一瞬、驚いた顔を見せる。


「ど、どうしたの、二人とも驚いた顔して?」

「え? あ、いや、なんだ……その……」


 ラルフが俺の質問に対して答えを渋っていると、


「ク、クライブが、そ、その……寝込む前よりかなり顔色が良くなっていたから少しビックリしただけよ」

「う、うむ! 母さんの言う通りだ、クライブ! いや~、元気になってよかった、よかった!」

「? そ、そうなんだ……」


 どうやら寝込む前に比べて俺はかなり顔色が良くなったらしい。そりゃあ、二人が驚くのも無理ないか。


 そうして俺は両親に一通りあいさつをした後、顔を洗いに行き顔を洗った後、部屋で外出用の身支度を整えてから朝食を取った


 出された食事はパンとベーコンのようなものと目玉焼きみたいなものだった。『ようなもの・みたいなもの』というのは、自分が知っているベーコンや目玉焼きとは少し味が違っていたからだ。どんな味だったかというと……何というか、素材のままの味というか……つまりは、何も味付けされていないということだ。まあ、『健康食』とか『精進料理』みたいな感じなので体には良さそうである。


「クライブはこの後出かけるの?」

「はい。ちょっと散歩でもしようかと……」

「散歩か……まあ、それくらいならいいが、あまり、激しい運動をしてはダメだぞ。また熱が出てしまうからな」

「え? そうなの?」

「そうなの、て……お前は『魔力縛り』なんだぞ!」

「魔力……縛り……」


 昨日の夢で長髪男が言っていた奴だ。


 ということは、やっぱり昨日の長髪男との言っていたことは本当だったのか。


「……三日前、たまたま訪れていた領主様に助けてもらわなければお前は危なかったんだぞ!」

「領主様?」


 すると、寝込む前の記憶が蘇った。確かに三日前、熱が出て体調を崩した俺は意識朧気な中、両親と見知らぬ男性が会話している光景を思い出す。


「そうだ。領主様が『魔力縛り』で苦しんでいるお前を少しでも楽にしてあげるため治癒魔法を施してくれたんだ」

「!? ま、魔法……?」

「? あ、ああ……?」


 俺は『魔法』というキーワードに驚いた顔を示したが、父親のラルフは逆に俺の反応を見て珍しがるような顔をする。


 どうやらこの世界には『魔法』が存在しているらしい。まあ、長髪男も『魔力』て言葉を出していたのでやはり聞き間違いないではないのだろう。


 この瞬間、外で情報収集を行うことなく、この世界が『地球』ではない別の世界……『異世界』であることが確定した。


「まあ、そんなわけだからクライブ……散歩するにしても村から出てはダメだぞ、いいな?」

「は、はい、わかりました」


 俺はそう言ってラルフと約束した後、外に出ていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あ、あの子、何だか、その……言葉遣いとか雰囲気が変わったわね。まるで『別人』みたい……」

「あ、ああ。もしかしたら『魔力縛り』が原因かもしれんな。だが、まあ、今はクライブが元気ならそれでいいじゃないか」

「そうね。三日前のあの子は画面蒼白で、まるで、そのまま死んで、しまいそう、だったもの……」

「メリッサ……」


 メリッサは頬から涙をこぼしながら三日前の気持ちを吐露する。


「私のせいで……あの子は『魔力縛り』として……『忌み子』として生まれてきてしまった。私の……私のせいで!」

「違う! そんなことはない! あの子の病気の原因は君じゃない、メリッサ!」


 母のメリッサはクライブが『魔力縛り』となって生まれたことが自分のせいだとずっと思い込み、クライブに申し訳なく思っていた。


「あの子、学校でイジメられているみたいだし……もう、私、これ以上、あの子に苦しい思いをさせたくないわ! それならいっそのこと、この村を出て森で暮らして……」

「ダメだ! 村の外は領主様の『結界』が通用しない。そんな結界の外の森なんかに行っては魔物にすぐに殺されてしまう!」

「で、でも! あなただって村の人に陰口や嫌味を言われているじゃない!」

「君だってそうじゃないか!」

「私はいいの! 私が原因であの子を『忌み子』として産んでしまったんだから……これは『罰』だもの」

「だからメリッサ! そんなことはないと言ってるじゃないかっ!」

「で、でも! あの子が……まだ九歳のあの子が……いつもイジメられて一番苦しいはずのあの子が!……私たちに心配をかけまいとイジメられていることを隠そうとする態度があまりにも……不憫で……」

「……メリッサ」


 二人は、自分たちではどうすることもできない現実にただただ泣き叫ぶしかなかった。


「きっと……きっと『魔力縛り』を治す方法がどこかにあるはずだ! 私はそれを必ず探して見せる! それまで……二人で一緒にクライブを支えていこうじゃないか!」

「あなた……」

「クライブはまだ生きてる! まだ死んでいるわけじゃない! 絶対に私が治療法を見つけ出して見せる! だから今はクライブが元気になったことを喜ぼうじゃないか、メリッサ」

「……そうね。あの子が元気であれば……私はそれだけで……」

「ああ、そうだな。それに昨日と比べて顔色もだいぶ良くなっている。もしかしたら快方に向かっているかもしれないぞ!」

「そうね……ありがとう、ラルフ」


 俺が出かけた後、ラルフとメリッサがそんな会話をしていたことを俺は知る由もなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……さて、とりあえずどこに行くかだが、まずは……」



 外に出た俺はとりあえず近くにあった空き地のような場所をみつけ、そこに転がっている岩に腰を落とす。


 本来であれば、ここが『異世界』かどうかの確認をする予定だったが、朝の父親とのやり取りでここが異世界であることが確定した。なので、


「それじゃあ……転生前のクライブの記憶を探ってみるか」


 俺は早速クライブの記憶を探ってみる。すると、すぐにわかったことはクライブは九歳であるということだった。


「見た目、七歳くらいなんだがな……なるほど、本人も自分の成長の遅さが嫌だったようだな、フフ」


 さらに記憶を探っていくと、今度はこの世界のことがわかった。ここは『グレゴニア大陸』という一つの大陸があるようで、そこに四つの大国があるらしい。そして、その大国のひとつに『センティエレメスト王国』という国があるのだが、これが、今いる村が属する国である。


 ちなみにこの村の名前が『アスティカ村』といい、センティエレメスト王国領のひとつである『クロムウェル領』の中にある村らしい。正式名称は『センティエレメスト王国クロムウェル領アスティカ村』とのこと。


 長っ!


 ていうか、クライブの記憶を探ることで、いよいよ、ここが完全に異世界であることが確定した。まあ、今更だが。


 あと、クライブはこの村にある学校に通っていたようだ。どうやら、この国は小さい村でもちゃんと学校が存在しているらしい。ちょうど奥の森に近い場所にある木造の建物がこの村の学校のようだ。


「あれ……か」


 ここから結構離れているようだが一応、目視で確認できた。雰囲気は学校というよりも宿舎に近い気がする。


「それにしても、子供もそんなに多くはいないこんな小さな村にも学校があるなんてある意味凄いな。もしかしたらこの国は教育を大事にしている国なのかもな」


 俺はそんなことを思いながら次に学校についての記憶を探ってみた。すると、数人の子から殴られている映像がババッといくつも映し出された。


「イジメ……か」


 クライブは学校のある朝はいつもキリキリと胃の痛い思いをしていたらしい。恐らく、イジメによる心因性のストレスが原因だろう。


「まだ、こんな小っさい子供が心因性ストレスかよ……。こんな異世界にもやっぱりイジメるクソみたいな奴はいるんだな」


 そんな残念な気持ちになっていると、そのイジメの原因になっていたものが更に浮かび上がる。


「クライブの奴、『魔力縛り』だってよ」

「世界に望まれなかった子……『忌み子』か」

「あそこの子って……『忌み子』らしいわよ」

「まあ、恐ろしい! どうして領主様はそんな子供まで学校に通わせてるの! うちの子に何かあったらどうするのよ! 本当、勘弁してほしいわ、あの『変人領主』!」

「あいつ、『忌み子』だってよー! 気持ち悪りぃー」

「うわー! 何でこいつ図々しく生きてんの? キャハハハ」


 そこには、子供だけでなく大人までもがクライブのことを『魔力縛りの子』……『忌み子』として、蔑んだ目と辛辣で残酷な言葉をぶつける。


――『魔力縛り』


 クライブの記憶によると、夢に出た長髪男が原因と言っていたこの『魔力縛り』は一種の『流行り病』みたいなものという認識らしい。しかも、理由は不明だがこの『魔力縛り』は何故か『平民の子供』だけに起こるものらしい。


「しかし、なんで、あの長髪男……『平民の子供』だけに取り込むんだ? それ以外の貴族や王族にはなぜ取り込まない? いや……『取り込めない』ということなのか?」


 俺はそんな『限定的』な部分に少し引っ掛かりを感じたが、そんな答えが出ない問題をすぐに引っ込める。


 それよりも問題なのはこの『魔力縛り』というものが、ここでは『世界に災いをもたらす病』と恐れられており、それ故、そんな子供を人々は『忌み子』と蔑み嫌っていた。


 当然、そのような扱いである『忌み子』は通常であれば村を追い出されるか隔離されるのだが、この村では領主の意向で皆と同じように生きる権利を与えていた。というのも、今から二十年前……この村で最初の『忌み子』が出たのだが、その時、当時の領主が『忌み子』を差別することを禁じ、この村で生きる権利を与えたからだった。


 その後、その子供は病気に飲み込まれ死んだらしいのだが、それ以来、この村では『忌み子』を平等に扱うことを決まりとしている…………のだが、実情は領主の見えないところでほとんどの村人はその本人をイジメたり、その家族をイジメたりしている。それがこの村の『二人目の忌み子』であるクライブやクライブの家族の現在の状況であった。


「『忌み子』ってだけでそこまでイジメられるとは……しかも家族まで。狂っているようだがこれがこの世界の現実……ということか」


 そんな『忌み子』であるクライブに転生した俺の人生に興味がある、なんて長髪男あいつは言ってたがそもそも俺、こんなハードモードな人生で長生きできる自信ねーぞ。


 そんな、今後のことを考えて少し落ち込んでいたところに、


「おい、何してんだ、クライブ!」


 後ろから声をかけられた。


 振り返ると、そこには三人の子供がニヤニヤしながら立っている。


「別に。今日は学校が休みだから散歩していただけだが?」

「うるさい! クライブのくせに態度が生意気だぞっ!」

「ザボン~、『忌み子クライブ』がまたイジメて欲しそうな顔しているみたいだけど~?」

「へっへっへ、そのようだな~。ちょうど今、ヒマしてたんだ。忌み子イジメでもするかぁ~!」


 そいつらの顔を見ると、そりゃ~もう、楽しいおもちゃを見つけたときのようなニヤニヤ顔を浮かべている。クライブの記憶では、こいつらは今と同じニヤニヤ顔で近づいては怯えるクライブを嘲笑いながら好き勝手にボコボコにしていた。そして、今回も俺の『怯えた顔』が見れることを期待しているようだ。


 しかし、俺がこんなクソガキどもにそんな顔を見せるなんてことは……ありえない。


「やってみろ、クソガキども」

「「「……えっ?」」」


 俺は腕を組み、目の前の三人に思いっきり不敵な笑みを浮かべながら宣戦を布告してやった。


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