第2話「プロローグその2」
「まだ顔色は悪いんだから、今日はしっかりと寝てなさい」
目を覚ました俺に母親はそう言ってそのまま布団をかぶせる。
とりあえず、俺は母親の言う通り、目を閉じて寝息を立てると二人は俺が寝たのを確認すると安堵の表情を浮かべ、コソッと部屋から出て行った。
もちろん、寝たフリだがな!
そりゃ、そうだろう……起きたら見たこともない部屋で、見たこともない人がいて、しかも俺自身が五歳くらいの男の子になっているんだ……寝れるわけないだろう?
そんなわけで、少し冷静になった俺は一つずつ現状を整理してみた。
俺の名は
そんな時、巨大地震が襲い、俺は家の天井に押しつぶされ命を落とした……はずだったが、目を覚ますと見たこともない部屋で寝ていて、見たこともない女性に『クライブ』と呼ばれた。『クライブ』とはどうやら俺の名前のようだ。
部屋にある窓を見るとそこには見た目、七歳くらいの金色の髪をした男の子がいた。それがどうやら『クライブ』という今の俺の姿らしい。
以上、現状から察するに俺はこの『クライブ』……『クライブ・W・フォートライト』という男の子の体に前世の記憶を持ったまま『転生』したっぽい。
しかし、転生したここはどこなのだろうか? 外国? だが、最初、両親の言葉が聞き取れなかったし、初めて聞く言語だった。
まあ、俺が知らない言語なだけかもしれないので何とも言えないところだが……ていうよりも、そもそもなんで俺は前の『間宮義人』とは別の体に『転生』しているはずなのに『間宮義人の時の記憶』がそのまま残っているんだ?
普通、生まれ変わったら『前世の記憶』はないはずでは?
少なくとも、俺が『間宮義人』として生まれたときは、それ以前の記憶なんてなかった。
どういうことだろう?
俺は少し考えてみたが、すぐに『今、わかることでもないから考えるのは無駄だな』と結論づけ思考を終えた。
「まあ、いろいろとわからないことだらけだが、とりあえずは明日はこの世界が『地球』なのか『異世界』なのか、この村を回って情報収集でもしてみよう」
そう言って、俺は目を閉じるとすぐに眠りについた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
"……おい……おい"
「んん……?」
"おい! 聞こえるんだろ? 起きろ"
「んん……? なんだよ、一体……うるせえ……」
"いいから早く起きろ"
「聞こえるも何もうるさいって言ってんだろ! 静かにしろ!」
"……起きろ!"
パチリ!
俺は男の最後の強い言葉に思わず目を覚ます。
目を開けるとそこは『境界が見えないただの真っ白な空間』が広がっていた。そして、俺の目の前には白い空間と同じ白いローブを着た黒髪の『長髪男』が立っている。
「あんたか、俺に声をかけたのは?」
「いかにも」
長髪男がそう言い切るや否や俺は、
「起きろ、起きろ、うっせーよ、おっさん! こっちは高熱で体が重くてしんどいんだよ!」
「だろうな」
「……なんだと?」
「その高熱は私が原因だからな」
「……どういうことだよ?」
「今、お前の体の中に私の魔力が入ったことによる体の抵抗が高熱の原因だからな」
「魔力? 魔力ってまさか……魔法を使う時のやつのことを言っているのか?」
「そうだが? 何を当たり前なことを……ん? なんだ? お前、魔法を知らないのか?」
「……知らん。俺がいた前の世界ではそんなファンタジーはなかった」
「前の世界、だとっ?! ど、どういうことだ?」
「俺はついさっきまで『地球』というところで生きていたが地震で死んだんだよ……でも、気づいたらこの『クライブ』という子供に……身を宿していたんだ」
「お、お前、『転生者』なのかっ?! それに『地球』だと……? クックック……なるほど。お前『も』地球出身の転生者か」
「……なんだ『も』て? お前、『地球』を知ってんのか? ていうより、俺以外にも地球からの転生者がいるのかっ?!」
「……クックック、そうか『地球』か……クックック」
「おい! 話聞けよ!」
そう言って長髪男は俺の質問に無視を決め込みながら、一人で何か納得めいていた。
ていうか、何だんだ、この空間も? この長髪男も? 謎過ぎるんだが……。
「おいお前! 私はお前を気に入ったぞ」
「はあっ?! いきなり出てきて、いきなり気に入ったって言われても意味わかんねーよ! ていうか、そもそも、お前何者だよ?」
「それは今は内緒だ。クックック」
「な、内緒ぉ~?! ふざけんな! なんでだよ!」
「こちらの『事情』だ。『今のお前』には必要ない……むしろ、邪魔な情報だ」
「何だよ、それ! そんなの勝手に……」
「……黙れ」
「うっ!」
長髪男が一瞬、殺気のような、祝福のような、相反矛盾する凄みで俺を静かに一喝。俺は体中に電気が走ったように痺れて思わず硬直する。
「フッ、まあ確かにお前が混乱するのも無理はないな。すまん、すまん」
「な、なんだよ……」
俺は軽くおちょくられているようでムカついていたが、さっきほどではないにしても、今もまだ薄っすらではあるが長髪男の体に周りにはさっきの『威圧オーラ』のようなものを感じる。その為、俺は必死に隠してはいるが内心は『恐怖のような畏怖のような感覚』に包まれ緊張していた。
「とりあえず、今、言えることは……お前の敵ではないということだけだ」
「し、信じられるかよ」
「フン。お前が信じようが信じまいがその事実に変わりはない。まあ今のところは、だがな。クックック……」
くっ、こいつ!
それってつまり……いつかは敵になるかもって言ってるようなもんじゃねーか!
「さて、あまり時間はないので手短に説明するぞ。まず、今のお前には二つの選択肢が存在する」
「二つの……選択肢?」
「私に協力するか、否か……だ」
「は?」
「私に協力すればお前を生かすし、協力しなければお前の魂を喰い殺す……以上だ」
「おいおいおい、それって選択肢ねーじゃねーか! ただの強制だろっ!」
「何を言っている? ちゃんと選択肢があるじゃないか? クックック」
「こ、この野郎~……」
足元見やがってっ!
「で? どうする?」
「……その前に一つ聞きたいんだが、その『協力』ってのは何をするんだ?」
「それはお前が協力に応じたらその時教えてやる……」
「なっ?!」
あ、あああああ、足元~~~~……っ!
「……と、言いたいところだが、まあ、そのくらいは教えてやろう」
「なっ?!」
下げてからの上げ、かよっ!
でも、それは助かるぅ~!!
「お前には…………この世界での『生き様』を見せてもらう」
「は? 生き……様……?」
「ああ、生き様だ」
「ど、どどどどどど………………どゆこと?」
「具体的に言うと『私の魔力を利用してどう生きていくかを見せてもらう』ということだ」
「い、いや……具体的に言っても……意味わからないんだけど?」
「なんだ、意外と察しが悪いな~。頭悪いな~」
「くっ?! うぐぐぐぐぐぐぐ……!」
そんだけの説明で……わかるわけねーだろっ! うう~、ムカツク~……っ!!
「いいか? 最初に言ったが今のお前は私……というよりも厳密には『魔力に同化している私』なのだが……それがお前の中にあり、そして、お前の命を少しずつ喰っている状態だ」
「く、喰っている~~?! い、命を……?!」
「このままの状態が続けばお前の命は私に食い殺される……これがお前の今の状態であり、これをお前ら人間たちは『魔力縛り』と呼んでいる」
「魔力……縛り?」
「そうだ。そして、私に協力すればその命を喰うのは
「……それって、俺の人格はどうなるんだ? まさか、お前が俺を支配してやりたいことをやらせる、みたいなことか?」
「フン……そんなことして何が楽しい? 私はこの世界での君の『生き様』を見たいと言っただろ? だから、お前は普通に生きればよいと言っている」
「え? そ、それだけ?」
「それだけだ」
これまた、どうにも胡散臭い内容である。
俺はこいつが何を考えているのか、何をしたいのか、何が目的なのか、いろいろと洞察していたがまったく見えない。
「というわけで、早速、調整を始める……手を出せ」
「手を?」
「早くしろ」
「わ、わかったよ! そう、急かすなよ……」
俺は慌てて右手を差し出すと、長髪男が俺の右手を両手で握りしめる。すると、
「ぐっ!? うぐあああああああ~~っ!! な、なん……だ……よ……これ……」
俺の胸のあたりに、何というか、大きな力の奔流のようなものが……大きなうねりと共に激しく入ってくる。
「うぐ……ああああああああ~~~~~!!!!!!」
その力の奔流はどんどん加速しながら中に入ってくる。俺はその大きな流れに意識を持ってかれそうになる。
「ほう……『地球からの転生者』だからなのか? まるで巨大スポンジのように……しかも、以前と違ってこれほども……クックック……これは想像以上だ」
激流に飲まれ、意識が途切れそうになる中、長髪男の言葉が微かに耳に入るがそんなことに意識を向ける余裕などその時の俺には全くなかった。
「う……うぐああああ………………ま、まだ……か……よ……」
俺は永遠と思えるくらいに長く感じるこの苦痛を長髪男に訴える……が、
「むぅ……ここまで吸収するとは。こ、これならば……!?」
長髪男は俺の言葉など耳に入っていないようで、ただ、嬉しそうな表情を浮かべながらひとり言をブツブツ呟く。
そして、長髪男が最後にグッと魔力を一気に流し込むと、その更なる激流に俺は意識が途切れそうになる。
そんな意識を失う直前、長髪男が歓喜にも近い声を上げた。
「す、素晴らしい……素晴らしいぞ『地球の転生者』! なーに、心配するな。私は別にお前を『すぐに』どうこうするつもりはない。それに私の魔力と一つになることでお前にはそれなりの『メリット』もあるからせいぜい人生を楽しむがよい。では、いずれまた会おう……『地球の転生者』よ、クックック」
い、いずれまた……だと?
そ、それは…………勘弁。
長髪男の歓喜の言葉に絶望した俺はそこで完全に意識を失った。
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