第28話 さよなら酸っぱいパン

「ただいま~」

 と言いながらダンジョンに入るけど、一階はホーソーンビー達と角うさぎ達しか居ない。

 親分の奥さんの誘導に従って、刈り取って来た草をフロアの隅っこに降ろす。

 親分は人相が悪いのに、奥さんは目がくりくりと大きくて、尻尾がピンと立ってる可愛い子なのよね。


 角うさぎ達に手を振って別れ、二階へ下りる。


「お帰りなさいませ。朝食の準備が整っておりますよ」

 フレイヤさんがにっこり笑って出迎えてくれる。

 学生時代、社会人時代と一人暮らしをしていたから、誰かがご飯を作って待っててくれるって、凄く有難い。


 剥き出しの地面の上に、私にくっ付いてやって来た卓袱台が置かれている。そしてその卓袱台の上に所狭しと朝食の乗った食器が並べられている。

 手の平サイズのパンケーキに、ジャガイモが沢山入った平たいオムレツ。それから野菜とベーコンのスープに、外で採取して来たのか見覚えのある赤いベリー。そして紅茶。

 卓袱台を囲んでいる人数が多いから、それぞれ大き目の皿に纏めて盛られていて、各自の前には取り皿が置かれている。


「簡単な物で申し訳有りません。パンケーキにはよろしければビー達が採取した蜂蜜をどうぞ」

 とスプーンを添えて小さな蜂蜜入りの瓶を出してくれる。


「簡単だなんて……。昨日までの食事と比べたら天と地ぐらい違いますよ……!」

 人権が回復した……ぐらい違うから。昨日までの酸っぱいパンを思い出して切なくなる。


 卓袱台には私以外にコボルト達も座っている。

 コボルト達は雑食なので、勿論肉が好きではあるらしいんだけど穀物も卵も野菜も有れば食べるらしい。

 玉ねぎは大丈夫なのか心配になったから聞いてみたら、何ともないとの事。まあ犬っぽく見えても魔物だものね。


 私の左隣は隊長で、そこからぐるぐるっと時計回りにコボルト達が続くのだけれど、何故か一周して右隣はナオさんが座っている。

 ナオさん朝ご飯食べたよね? と目線で問うと、ツンと顔を反らされた。

 コボルト達と仲良くしてると思って妬いてるのかな?

 膝の上に誘いたいけど、この地面むき出しの状態だと正座はちょっと辛いし、脚を投げ出して座るには卓袱台は小さすぎて、コボルト達に届いてしまうからちょっと難しい。


 何て思っている間にも、フレイヤさんはテキパキと動いてそれぞれに朝食を取り分けてくれる。

 軽くお礼を言って、手を合わせて頂きますをする。

 コボルト達も待ちきれなかったのか、自分の目の前の皿に食事が配られると、他を待たずに食べ始めてしまう。


 先ずは程良い大きさのパンケーキから。食べやすい大きさに切って口に入れると、仄かに牛乳の甘みがして素朴だけど美味しい。スクランブルエッグとかを添えてしょっぱい感じに食べても美味しいだろうなあと思いつつ、残りのパンケーキに蜂蜜をちょっと垂らして食べる。酸っぱく無くて、噛める柔らかさが素晴らしい。

 オムレツもジャガイモがごろごろ入っていて、両面を固めに焼いてあるスパニッシュ風の奴で、ボリュームが有って良い感じ。人数が居るから、卵をたくさん使うオムレツを個別に焼くには、材料が足りなかったのかもしれない。これならジャガイモで嵩増し出来るし、人数分に切り分ければ良いからね。

 スープもコンソメベースの刻んだ根菜とベーコンが入った奴で、軽く塩や胡椒で味を調えてある。温かい食べ物はお腹の奥からほっとするよね。

 紅茶を飲んで落ち着いてから、ベリーをちょっとだけ摘まむ。酸っぱい。でも美味しい。


 満足して横を見たら、口の周りを赤く染めたコボルト達が居て、可笑しくて可愛くて笑ってしまった。

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