第7話 ダンジョンコアさんが仲間になりました

「ダンジョンコア?」


「はい、そうです」

 問い掛ければ、その天使はゆっくりと瞬きをしながらそう答える。

 長い睫毛がくるりと上向きにカールしていてとても美しい。


「はあ、ダンジョンコアってこう丸い核みたいな奴とか、そういう感じの物じゃなかったのね」

 ダンジョンの最奥に、台座の上にぷかりと浮かんでいる様な、そんな物をイメージしていたんだけど違った様だ。


「ダンジョンマスターを他の世界から召喚してくるので、常識の補完やダンジョン運営のサポートなどから生活のちょっとした事まで、必要な項目が多岐に渡っているため、ダンジョンコアは自律型になっています。ご不満で有れば旧型の据え置き機とも交換出来ますが、どうされますか?」


「その場合、交代したあなたはどうなるの?」

 交換って言ってるの、何だかやだなあと思いながら気になった事を聞いてみる。


「ダンジョンコアはマスターと適合する様に設定されるため、交換となった場合は初期化されて元居た場所に戻されます」

 その後再利用されるのかどうかは、僕の知識の中には無いので返答しかねます。


「はあ、やっぱりね」

 淡々と答えを述べるのは、彼がやはりコアという物だからなのだろうか。

 それでも目の前に居るこの子は、呼吸もしているし瞬きもしているのだ。


「それを聞いちゃうと、余計にチェンジなんて言えないわね。袖振り合うも他生の縁って言うし、折角一緒になったんだから、あなたによろしくお願いしたいわ。……って、私はダンジョンマスターじゃないから決定権は無いわね。ねえ、ナオさん。うちのダンジョンコアさんはこの子で良いわよね?」

 しゃがみ込んで地面に八つ当たりしていた私の登頂に成功したナオさんは、持ち前の優しさと面倒見の良さで以って、私を慰め様としてくれていた。

 つまりはグルーミング……髪の毛をさりさりと舐めてくれていたのだ。


「んニャ? ナオさんは、丸い玉も好きなのニャ! でも美咲の方が好きニャから、美咲の好きにすると良いのニャ」

 その代わり、後でボール遊びを一緒にして欲しいと、何とも可愛らしい交換条件を付けて来る。


「と言う訳で、よろしくね。……ダンジョンコアさんって言い難いわね。あなたのお名前は何て言うの?」

 手を伸ばして握手を求める。


「ホーソーン丘陵のダンジョンコアと言います」

 よろしくお願いします。そっと伸ばされた指先は、その色合いと同じ様にちょっとひんやりしていた。


「むむっ、それは名前とは言わないと思うなあ。う~ん、と言っても全然違う名前を付けるのも、何か落ち着きが悪いし。……そうだ、白銀しろがねはどうかな? そのまま見た目の色からなんだけど」

 銀色って付けているのと大して変わらないんだけど、ちょっとだけおしゃれにしてみた努力は汲んで欲しい。


「白銀……」


「気に入らなかったら、自分で付けても良いのよ」

 噛みしめる様に繰り返すから、他に良い名前が有ればそちらでもと聞いてみる。


「ナオさんは、キトキトフィッシュ満腹三世が良いと思うのニャ」

 美咲はネーミングセンスが無いのニャ。ナオさんの名前もな~ぉって鳴くからナオさんなのニャ。と鼻に皺を寄せる。


「……白銀でお願いします」

 私よりナオさんの方が権限が上だから、強権で決定されてしまう前に、慌ててダンジョンコアさんは名前を選択したようだ。

 キトキトなんちゃらは言い難いから、無難な所で収まって何よりである。

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