第6話 日誌でメッセージのやり取りをしたらそれは交換日記ではなかろうか

「まあ、ダンジョンにも案内して来たし、初期スキルも取得した事だし。僕の役目はここまでかな~?」

 チェック項目良しっと。バインダーに挟んだ書類に印を付けて、相手は満足そうに頷いた。


「はあ? 全然良くないんですけど!」

 ナオさんがダンジョンマスターになっちゃってるし、これからどうしたら良いのかも分からないし、私のスキルは【撫でる】とか役に立たなさそうなのだし。

 詰んでるとしか言い様が無い。


「ダンジョンに関する詳しい運用方法は、ダンジョンコアさんが説明してくれるから!」

 僕は実務の細かい所とかは分からないんだよね。閉じたバインダーを胸元に抱えて、やり切ったみたいな表情を相手はする。


「それじゃ、他に質問とか無ければ僕は帰るけど?」

 次のダンジョンマスターの案内をしないといけないからね。管理者は忙しいのさ。と態とらしいウインクなんかしてくれちゃうから、胡散臭さマシマシなんだと思う。


「じゃあ、名前」


「えっ?」


「名前と連絡先を教えなさいよ!」

 事有る毎に文句言ってやるんだから!


「……えっとね、僕の名前はマーク! マークって言うんだ!」

 何が嬉しいのか、相手は満面の笑顔で誇らしそうに答える。


「案外平凡なのね」

 もっと捻くれた名前なのかと思っていた。


「そう、平凡なんだよ。……でも誰も名前なんて呼んでくれないからね~」


「ふうん? で、あんたに連絡を取りたい時は、どうすれば良いわけ?」

 ここで聞き出しておかなければ、二度と連絡先は手に入らないと思うのだ。


「あー……。本来なら、管理者とダンジョンマスターが個人的に連絡を取るのは良くないんだよね」

 どうしよう……。と相手は腕を組んで悩み始める。


「うーん、うーん。……そうだ、ダンジョンコアの機能にダンジョン運営日誌ってのが有るんだけど、それに僕宛に書いてくれれば、目を通すから!」

 ちゃんとマークさんへって書いておいてね。とか言って来るのが地味にウザい。


「分かったわ」

 兎も角もこれで何か有ったら苦情を入れられるってものだ。


「じゃあ、今度こそ行くね。……良いダンジョンライフを!」

 ぶんぶんと手を振って別れを告げてくるから、仕方なく手を振り返してやる。


「あのね、君は僕の名前を聞いてくれたから、特別に【鑑定】スキルも付けておくよ! 特別だよ!」

 自分の周りにくるりと円を描いて、足を二度踏み鳴らして、転移の魔法陣を完成させる。


「それとね~、君の飼い猫のナオさんなんだけど、猫又になってるから!」

 何でか僕も分からないんだけど! ダンジョンマスターになっちゃったからかなあ?

 それだけ素早く言い置くと、魔法陣の部分だけ切り取られた様に開いた穴に、すとんと落ちて消えてしまった。


「ちょっと! 最後に何って言ったのよー!」

 掴まえて揺さぶってやりたいのに、最後の最後で言い逃げされてしまった。




「……あの、大丈夫ですか?」

 座り込んで地面にやり場のない怒りをぶつけていたら、横合いからそんな風に声が掛かった。


「ありがとう、あなたは誰?」

 先程までここには管理者と私とナオさんしか居なかった筈だ。


 座り込む私の横に、視線を合わせる様にちょこんとしゃがみ込んでいるのは、銀色の髪に銀色の瞳の白い肌の子供だった。

 多分男の子?

 多分と付くのは、ちょっとくるりと巻いた短目の髪とバチバチに長い睫毛が、まるで天使の様だからだ。

 年の頃は六、七歳くらいだろうか。


「僕? 僕はダンジョンコアです」

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