第5話 ダンジョンマスターのお仕事とは

「ま、まあ、なっちゃったものは仕方無いよね。気を取り直して説明を続けますよ~」


「そんな訳に行くか~! ちゃんとどういう事か説明して!」

 真面目な表情を作って、では……何て言う相手の胸倉を掴んで、強引に揺さぶる。

 おかしいな……こんなバイオレンスなキャラじゃなった筈なんだけど、頭で思うと身体が動いてしまう気がする。


「た、多分。多分なんだけど、このダンジョンに移動してくる時の魔法陣が、ダンジョンマスターの認証も兼ねてたんで、どうも君が立ち上がって退こうとした性で、魔法陣の中心が君の飼い猫になっちゃったんじゃないかと……」

 僕だってこんなケースは初めてで、どう対処すれば良いのか分からないから困ってるんだって~。だからそんなに揺さぶらないで~。と大袈裟に騒ぐから、煩いのもあってぺいっと手を放す。


「で、ですね。君の飼い猫が……」


「ナオさんよ」


「……ナオさんがダンジョンマスターになったんだけど、えーっと……、ダンジョンマスターはDPダンジョンポイントを使ってダンジョンの運営をして貰わないといけないんだけど、……出来るのかな?」

 どう思う? 自分より背の高い男に可愛らしく小首を傾げて聞かれても、無言を返事とするしかない。


「……ですよね~。うん。よし。……って事で、君にはサブマスターの権限を付与しておいたよ。勿論ダンジョンマスターの方が上位の権限を持ってるけど、君もDPを使ってちょっとした事なら出来るようにしたから。……後は、っと。意志の疎通が出来ないと不便だろうから、話を出来るようにしておくね。……それから初回特典のスキルを一つ選んでくれるかな? ええっと、ナオさんと君の二人分」

 適当に欲しい能力を言ってくれたら、似た様なスキルを付与するから。以降のスキルは自力で覚えるか、DPを消費して覚えるかしてね。


「えっ、いきなりそんな事言われても。ダンジョンマスターってDP使う以外では何が出来るかとか、ダンジョンの初期環境とか聞かないと決められないわよ」

 例えばダンジョンコアを使ってこの世界の細かな知識を引き出せるのに、鑑定のスキルを覚えるとかだったら無駄だろうし、荷物はダンジョン内に仕舞っておけるのにアイテムボックスのスキルを取るのも無駄になる。

 DPを使ってスキルを取得出来るとはいえ、軌道に乗るまでは多分最初のスキルで暫く乗り切るつもりで選ばなければならないと思う。


「……なのニャ!」


「えっ?」


「美咲は【撫でる】で良いのニャ!」

 ずっと腕に抱えたままだったナオさんが、いきなり喋り出したかと思ったら、そんな事を言い出した。


「了解~。【撫でる】ね。丁度有るみたいだよ~」

 バインダーに挟んだ書類にさささっと何やら書き込んで、これで良しと小さく頷いた。


「ナオさんは立派な爪が有るから、これで十分ニャ」

 シャキキーンと爪を出して、得意そうに胸を張るナオさんマジ天使かな?


「は~い、じゃあ爪に関するスキルでも……っと。ん~、既に爪関係のスキルは持ってるみたいだから、上乗せしておくね~」

 これで良し。と相手は書類に更に追加する。


「えええっ、ちょっと待って。ナオさん、【撫でる】何て駄目だよ~。……いや、ナオさんの事を撫でるのは、私の大事な役目だけど。最初の生き残りが掛かってるのよ~。……ねえ、これ無かったことにして別のって訳には……」

 顎の下をこちょこちょっとしながらナオさんのご機嫌を取りつつ、やり直しを要求してみる。


「残念ながら、選択し直しは出来ません。……残念だなあ」

 あ、これ殴っても許される案件(四度目)かな?

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