第4話 移動はやっぱり魔法陣
「はあ……。悔しいけど、その話受けるしか無いみたいね」
ナオさんのためならば仕方が無い、詰まらないプライドとかどうの何て言っている場合じゃないのだ。
何と言ってもナオさんは箱入りのお嬢様なのだ。野に放って魔物と戦いつつ食料を見付けておいで何て出来る訳が無い。
「そう来なくっちゃ!」
満面の笑みを浮かべて嬉しそうに手を叩く。
無邪気な振りを装っているのが、また腹立たしい。
「それじゃ、詳しい事は
善は急げって言うしね。と言いながら、持っていた指示棒で床にぐるりと円を描く。
慌ててパイプ椅子から立ち上がろうとしたけれど、相手が足を二度踏み鳴らす方が早くて、足元の円はピカッと光って魔法陣になったかと思ったら、また穴が開いて落下したのだった。
「はい、到着~!」
いきなりの落下からの唐突な着地だったけれど、特にこれと言った衝撃は受けなかった。
気が付いたら足の下に地面が有ったというだけで、途中の浮遊感というか下降感が無ければ落ちていたかと言うのも怪しく思われる。
「ちょっと! 確認ぐらい取ってくれても良いんじゃないの?」
偶々運よくナオさんを抱っこしたままだったから良かったものの、ナオさんは気まぐれなお猫様なのだ。寧ろそこが魅力とも言えるのだが、そんな訳だからうっかりすると置いて来てしまったかもしれないのだ。
考えるだけで震えが走る。
後、心の準備とかも要るじゃない。
「だって、気が変わって逃げられちゃったら困るし?」
言質を取ったら即実行有るのみですよ。なお、クーリングオフは有りません。と、にっこりと笑う。
これは殴っても許される案件(三回目)。
踏み込みからの、相手の足の甲を踏んで押さえて、脇を締めて握った拳をコンパクトに上へ振り抜く。
まあ、振り抜きたかったけど、今回までは寸止めで。
「次からはちゃんと確認して?」
顎の下にピタリと当てて、相手を睨み付ける。
見上げなければならないのが、ちょっと腹立たしい。何気に背が高いのよね。
「は、はいぃ~!」
ちょっとだけ笑みが引っ込んだ事に満足して、踏んでいた足を退かせば、すすすすっと手の届かない位置まで下がってしまった。
「で?」
こんなところに連れて来た説明をして貰いましょうか。
多分ポーズだけで毛程も堪えていないだろうけれど、だからと言ってこちらが引く理由にはならない。掛けられる圧はガンガン掛けていくのだ。
「……で、ですね。ダンジョン運営をして貰う、つまり君にはダンジョンマスターになって貰いま~す! そしてここが君の運営するダンジョンです!」
どうです、素敵でしょう? と、両手を広げて誇らしそうに言われても、どう見てもただの岩窟です。
何も無いんだけど?
「あれ~? 嬉しくない? 他の子達はこう、テンション上がりまくってたんだけどな~」
むむむ、何か間違ったのかなあ。何て態とらしく眉間に皺を寄せて悩んで見せているが、そうは行かないのだ。
「と、兎も角っ、君にはここのダンジョンマスターをして貰うのは決定です! ……て、あああっ! 何で、どうして~」
手元のバインダーを開いた相手は、情けない悲鳴を上げる。
「何よ!?」
「ダ、ダンジョンマスターが何故か飼い猫になってるうぅ……!」
どうして! どうして? と焦った様にバインダーに挟まれた書類を捲っては戻し、捲っては戻ししながら、聞き捨てならない事を相手は叫ぶ。
「はあぁ!? 一体全体、どういう事よっ!」
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