ブッヒィィィィイイイイ!
遥が照夫の恋人、いや、愛人になる?
「ねえ朔夜ちゃん。照夫くんも吸血鬼ってことは、ドナーにしたいって意味で、恋人になってくれって言ってきたってことかな?」
なるほど。そうだ、思えば今日、遥のにおいが、って言及していたような気がする。きっとそうだ。
「きっと両方の意味じゃな。やつはドナーをドナーとしてだけでなく、愛人としても扱う男じゃ。メイドさんを家事仕事だけに従事させるのではなく、夜の奉仕までさせる。そんなイメージじゃ」
どんなイメージだよ。
「でも照夫の周りにいた女子たちは、無理矢理照夫のそばにいさせられてるっていうよりは、自分から好んで照夫のそばにいるっぽかったぞ」
「そうなのじゃ。やつは狙ったおなごは確実にオトしてきた。じゃから、遥もオトせると信じてやまないじゃろう。じゃからもし遥が断ったとして、その後権力行使にでるかどうかは、分からん。その可能性があるというだけじゃ」
断定はできない、ということか。
「どうするつもりだ、遥」
遥はこれまでのをうけて、どんな結論を下すのだろう。
「んー。ちゃんと話せば分かってくれるんじゃないかな? そんなに深く考えなくても大丈夫だよ、きっと」
いくらなんでものんき過ぎる。小さい頃から脳天気だったが、ここまでとは。
「朔夜の話、聞いてただろ。どう考えても大丈夫なんて言える状況じゃ」
「大丈夫だよ。だって、あっくんがいるんだもん」
もぐもぐとハンバーグをほおばりながら、何の憂いもない顔でそんなことを言う。
「それが何の関係が」
「そうじゃな。そうじゃった。アキヒロがおれば心配なかろう。じゃが、もしもの場合に備えて、明日は我も学校に着いていくとするかの。隠れてぬしらを見守っておるから、緊急事態には呼ぶがいい」
スプーンで茶碗蒸しをすくいながら、朔夜は先ほどの剣呑な雰囲気を引っ込めて気の抜けた声で遥に賛同した。
「あっくんに加えて朔夜ちゃんもいるなんて、百人力だね」
「うむ。明日、照夫のやつと決着をつけるがよい」
「上手く進んでくれるのいいんだけだどねー」
お前等の俺に対するその謎の信頼はなんだよ。流石に権力の前には一般人の俺は無力だろうに。
その後、俺がしつこく抗議しても二人はスルーするばかりで、俺はやがて諦めた。
夜。俺は中々寝付けないでいた。
吸血鬼の芸能界の御曹司を相手に、二人は楽観的過ぎる。
遥が、照夫のものになるかもしれない。そう考えただけで、背中がぞわぞわする。これはきっと、アレだ、本人の意に反して、相手をものにしようとする下劣な行為に怒りを覚えているだけだ。そうに違いない。
とにかく、俺にできることはなんでもしよう。舌技以外に取り柄のない自分に、何ができるか分からないけれど。遥の幼なじみとして、全力を尽くそう。
強く決意を固め、布団を被り直した。
寝よう。体調を万全にするために。
翌日。月曜日。夜には両親が帰ってくる今日この日。
俺は朝練に励んでいた。
「ふんっ! ふんぬぅ!」
母親が庭いじりが好きなため、庭だけは一般家屋に比べ広い。それを利用して、ランニングを行う。無論、トラック用の大きなタイヤと舌を縄でつなぎながら、な。
「朝から精が出るのぅ、アキヒロ」
縁側で朔夜が下着姿で俺の特訓風景を眺めていた。今日の下着は黒と赤のハイブリッド。おとなっぽさ、妖艶さが感じられ、かつ朔夜の一際白い肌を際だたせている。エロい。
「はぁ、はぁ、ぷっ。今何時だ?」
縄を外しながら問う。特訓していると時間の感覚がなくなる。
「まだ六時半じゃな」
「そうか。そろそろ遥が起きてくる時間だな。先に朝食作っとくか」
「その前に、ぬし自身の食事を済ませるがよかろう」
「もう流石にその意味は分かる。照夫と何があるか分からないから、万全の状態にしておきたい。ありがたく摂取させてもらうとするか」
「ずいぶん丸くなったのう。最初はあんなに嫌がっていたのに」
「背に腹は変えられない。吸血鬼としての自分を受け入れはじめた、のかもな」
「良い傾向じゃ。ではリビングへ」
「おう」
タオルで汗を拭ってから部屋へあがる。
「今日は特別じゃ。汗と唾液、両方やる。これで英気を養え」
「感謝する」
「本当はもっと濃い、他の体液をやってもいいんじゃが、ぬしにはまだ刺激が強すぎるだろうし、慣れ親しんだ味のがいいじゃろうと思ってな」
「だな。汗と唾液で十分だ。大事な時に吸血欲求のせいで何もできないなんて目も当てられない。朔夜、悪いが存分に飲ませてもらうぞ」
「フフ、良い目をしておる。まさに戦に赴く戦士の面構え。不覚にもこの我がトキメキそうになってしまったほどじゃ。我も気合い十分。昨日の夜から水、その他を多めに摂取して体液の分泌量は十分。ニーソックスによる汗の熟成もばっちりじゃ」
朔夜は得意げに黒いニーソックスをなでた。今関係ないけど下着にニーソックスって扇情的やすぎませんかね。
「俺のために、そこまで……。朔夜のためにも、俺、最善を尽くすよ」
「その意気じゃ。では、はじめるとするかの」
「ああ」
これが師弟の絆。師の思いやり、期待に応えるために、俺は、俺は!
「ふぎいい、早く、早く飲ませてくださいご主人さまぁ!」
「かっかっかっか、もっと鳴け! 鳴くのじゃ! 可愛く鳴いておねだりして見せるのじゃあ!」
朔夜によってうつぶせに寝かされ、後頭部や背中、尻などを無差別に踏まれる。
「おふぅ、ぶひぃぶひぃぶひぃ! これでいいですかっ」
「気持ちがこもっとらーん! もっと情熱的に、リアルに!」
「ブ、ブヒュッ、フガフガ、ブヒィ、ブッヒィィィィイイイイ!」
「いいぞいいぞその調子じゃ!」
朔夜のテンションが上がっていくにつれ、より激しく踏まれる。朔夜の体重がかなり軽いのが幸いした。めちゃめちゃ痛いわけではない。
「コケッ、コッコ、コケコッコォォォォオオオオ!」
「おお、朝だから鶏か! ここでアドリブとはやるのぅ! 家畜動物というのもグッドじゃ!」
「あひぃ! せ、背中の、そこはダメッ! つぼなのぉ!」
「はぁ? ダメじゃと? 誰に向かって口をきいとるか今一度考えてみるんじゃなぁ!」
「ああ! 尻の! そこの部位はらめぇっ!」
「かーっかっかっか! 愉快じゃ! なんと愉快なのじゃろう! 我は今、歓喜している!」
くっ。焦らされているはずなのにっ。なのに朔夜が楽しそういしているのを見るとほっこりした気持ちなる! そう! このそこはかとない背徳感、気づいてはいけないはずの快感は決して俺が新しい世界の扉を開きかけているせいじゃないんだ! そうであると信じたい!
「ご主人さま、どうか、どうかお情けをっ」
「いいじゃろう! ほれ、そこにひざまづいて我の足を舐めよ!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
これは吸血行為これは吸血行為これは吸血行為。
舌を這わせ、存分に堪能する。
このムレ具合っ! 汗の量! 熟成されたにおい! これまでで間違いなくトップクラスの汗!
最っ高だああああ! フルーティで、人工甘味料にはない複雑でナチュラルな甘味! たまらんっ!
「特別に、下乳にたまった汗をやろう。小さめのブラを着けているゆえ、極少量であれば提供できるぞ」
朔夜はブラを少しだけ上にズラし……。
「こ、これはっ! 圧倒的美味! これが、これこそがエリクサーだったんだ……!」
この時点で既に頭はショート寸前だった。
「では、最後に唾液じゃな。ほれ」
俺を直立させ、自身は少し背伸びして俺の肩をつかみ、舌を出す。
さっきまで自分をSっ気たっぷりに攻めていた朔夜が、今は大人しく、己を差し出すかのような姿勢になっている。なんかこうグッとくるものがって違う違う今は吸血に集中集中。
前回、朔夜から唾液を摂取した際、舐めることだけではなく吸うことも大事だと体得した。天原家は吸うことに特化していると聞く。さらに照夫は舐めの技術まで取り入れた、と。俺は偶然にも月読家が得意とする舐めに特化している。幅を広げるために、また、照夫に対抗するためにも、俺は吸う技術を磨かなければならない。
吸血鬼芸能界の二大巨頭。月読家と天原家にはそれぞれ体系化され受け継がれている吸血技術がある。対して俺は完全な自流。しかし、朔夜は俺の実力が本物だと認めてくれた。なら、俺は、俺自身を信じ抜いて、ナメニストとして名を馳せてやる!
「むぐぅ!? アヒヒロ、ぬひ、ほれははさかっ!」
無我夢中で吸いを意識した吸血を行う。ただそれだけを、磨く。
そうか! 喉や舌の筋肉、それは舐めることだけではなく吸うことにも応用できる! 舌をストローのように丸めたり、喉の筋肉を繊細に扱って強弱を付けたり!
見える。見えるぞ『吸い』の極意が!
唾液摂取、吸血特訓を同時に行う。
極意をつかんだと確信した俺は、ようやく朔夜を離した。
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