遭遇
俺と遥が同時に反応する。
遥の様子から、どうやら知り合いのようだ。
「あっくん、昨日天原くんと会ったの?」
「遊園地で、偶然。遥の知り合いだったのか? 名前知ってるってことは」
「何言ってるのあっくん。知り合いも何も、私たちの学校に転校してきた転校生だよ。あ、そっか、あっくんはまだ見たことなかったっけ」
なるほど。この男が、王子様のようにイケメンな噂の転校生か。確かに『王子』という言葉はこの男にこの上なくハマっているように思える。
「む。キミは、昨日の! 尋常ならざる舌技を持ったマスラオか! この女性の知り合いだったのか!」
「小さい頃から知ってる幼なじみだよ。そっか、転校生だったのか」
「二人とも同じ学校の生徒だったのか。自己紹介させて欲しい。ボクの名前は天原照夫(あまはらてるお)」
「俺は月瀬明弘」
「私は陽向遥」
「おお、我が女神の名はヒナタハルカというのか! 何と美しい響き! ぜひ、ボクの恋人に」
「冗談とかじゃなかったんだね」
遥はとまどったようにきゅっと拳を握り込んだ。
「冗談であるものか。ボクは本気だ。本気で一目惚れした。キミのにおい、っと、違う、麗しい姿、声に!」
遥が隣に座る俺の袖を握ってきた。どうした? と目を向けると、無意識に握ってしまったようで、俺の視線に気づいてパッと手を離した。
「急に言われても」
「人生というのは急の連続さ。時間に意味はない。タイミングさ」
「いやそういうことじゃなくて」
尚も熱烈アタックを続けようとした照夫をさえぎるように、複数の嬌声がそこかしこからあがった。
「テルくーん! 探したよー!」
「なんで一人でどっか行っちゃうのー」
「ねぇねぇ次はこんな寂れたとこじゃなくて駅前のカフェに行こうよー」
次々と照夫の元に集う華やかな女子たち。
「この人たちは?」
突然現れた美女集団に囲まれ、俺と遥は肩を寄せ合った。圧が凄い。全員キラキラしてる。これがキラキラ系女子か。キラキラ系女子ってなんだ。
「ああ。元クラスメイトたちだよ。みんなボクのハニーさ」
聞き捨てならない台詞に、思わず俺はツッコんだ。
「いやいやいやちょっと待て、ハニーってどういう意味だ?」
「そのままの意味さ。ボクの愛人たちだよ」
「でもお前、遥にアプローチしてたよな?」
「そうだよ? ハルカはボクの運命の相手さ」
「この子たちは?」
「この子たちもそうだよ。でも、ハルカは特別さ」
OH……。そっち系男子だったか照夫。ハーレム作っちゃう系の色男系か。
「ねーねーテルくんそれどういう意味?」
「ボクは一人を特別愛したりはしないって言ってたよね? 全員を平等に愛するって」
「大体そのコよりアタシたちのが明らかにカワイイじゃん。ハルカちゃん? だっけ? アンタ照夫をどんなテ使ってオとしたわけ?」
最後の一人の発言に、なぜか無性に腹が立ってつい口出しをしてしまった。
「おい。そりゃ失礼だろ。遥と照夫にはほとんど接点はない。ほぼ初対面の状態で、いきなり照夫が告ったんだよ」
「ハァ? あんた誰? そのハルカってコの彼氏かなんか?」
「か、彼氏とかじゃないけど」
「なら黙っててよ。これアタシらの問題だから」
むっ。彼氏じゃなきゃ首突っ込んじゃいけないってか。彼氏じゃなくても俺は遥のことを大切に想ってる。友達? 親友? なんて言ったらいいか分からんけど、とにかく家族みたいに想ってんだよ。親が子どもに口出しするのと同じようなもんだろ。
とキレ気味に言おうとしたところで、照夫が声を張り上げた。
「ストーップ! そこまで! すまなかった! ボクが全部悪いんだ! ハニーたちにはこれから埋め合わせするから! さ、行こう行こう!」
照夫は美女集団を牧羊犬のごとく誘導し、去っていった。
嵐が、過ぎ去った。
俺と遥は照夫たちが去っていった方を呆然と眺める。
「なんだったんだ、あいつは」
「さあ。私が聞きたいよ。いきなりアプローチされたかと思ったら、恋人さんたちがたくさん現れて」
「愛人っつってたな。すげえな」
「私にハーレムの一員に加われって誘われたのかな」
「遥は特別だって言ってたぞ」
「みんなにそう言ってるかもしれないよ」
「や、俺につっかかってきたやつには、みんなを平等に愛するって言ってたらしいから違うだろ」
「うーん。よわったなぁ。明日学校で会ったら、何て言われるか」
「また求愛されるんじゃないか」
「天原くん、初日からファンクラブできたくらい人気だから、学校で堂々と恋人になってくれ、なんて言われた日にはファンクラブのみんなから総叩きにされそう」
「キッツ」
「今考えても仕方ないか。私たちもそろそろ行こうか、あっくん」
「お、おう」
遥は既に落ち着き、普段のどこか気の抜けたような雰囲気に戻っていた。あれだけのことがあったのに。
「時間も良い頃合いだね。スーパーに寄って今晩の食材買ってから帰ろうか」
「夕食食べてから帰ってもいいんだぞ」
「それじゃあ朔夜ちゃんが一人になっちゃうじゃない。一人で冷食食べさせるの可哀想だよ」
「遥がそれでいいならいいよ」
「ん。それに、あっくんと一緒にお夕食作って、食卓囲んで食べるの、外食より好きだしね」
「……そっか」
面と向かってそう言われると、なんか照れるな。
水族館の中の生物を全て鑑賞してからイルカショーを見たため、後は退館するのみ。
退館ゲートを出る少し前に、俺はあることを思い出して足を止めた。
「どしたのあっくん」
「ちょっと用を思い出してな。遥は先に出てあそこのベンチででも待っててくれ」
「? うん、分かった」
遥に先に出て行ってもらい、俺は来た道を引き返した。
向かったのは、物販コーナー。
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