朔夜の手料理
翌朝。
目が覚めた俺は、急いでベッドを確認した。
いつものパターンだと、朔夜が潜り込んでいるはずだ。そして、体液提供へ進む。
と、予想していたのだが、誰もいなかった。
安心するかたわら、少々寂しい気も。っていかんいかん。なんてこと考えてるんだ。これが普通だ。
着替えてリビングへ。
遥が朝ご飯を作っていると思いきや、キッチンに立っていたのは朔夜だった。遥はソファに座ってテレビを見ている。
「おはよう」
「はよ~あっくん」
「おはようじゃ、アキヒロ」
遥は俺に背を向けたままひらひら片手を振り、朔夜は尊大な口調でお玉片手に笑顔を向けてくれた。
昨日のことは引きずっていないように見える。なら、俺も普段通りに接することにしよう。
テーブルについて、朔夜が料理をしているのを観察する。
「朔夜、料理できたんだな」
「失礼な。料理くらいできるわい。朝餉のみならずアキヒロとハルカの弁当も作ってやろう」
ちなみに言うと、朔夜は当然のごとく裸エプロンだった。
アブナイ胸元、キケンな背部。観察対象が料理姿から裸エプロンにシフトする。
いいなあ。美少女の裸エプロン。眼福だなぁ。
んぅ? なんだろう。頭が何かにホールドされたぞ。まるでUFOキャッチャーにつかまれた時みたいだ。そんな経験ないけど。
グリンと視線を強制的に逸らされる。
逸らされた先にあったのは、遥のとびきりの笑顔だった。
「あっくん」
「すみませんでしたもう見ません朔夜には服を着させます」
「よろしい。そうだ、今後、私もああいう格好で料理した方がいいかな?」
「そりゃあその方が男子的に歓喜せざるを得ないとうか」
「するわけないでしょ、ばか」
「まあ俺も遥があんな格好してたら喜ぶよりまず正気を疑うな」
にっこり。
「なんかすいませんでしたぁ!」
たまに、遥の怒りスイッチがどこか分からなくなる時があるんだよな。
朔夜の料理が終わったところで服を着せて、朝食タイムへ。
焼きジャケ、冷や奴、大根おろし、白飯に味噌汁と実に日本的な食卓に仕上がった。
「なにこれうっま! え、こんなうまい焼きジャケ食べたことないんだけど。特に味噌汁ヤバイ。味の奥行きがすさまじい」
冗談抜きに、朔夜の日本食は美味かった。
「悔しい……美味しい……」
遥は、眉間にしわを寄せたかと思ったらまなじりを下げる、を繰り返していた。胸中に複雑な感情が渦巻いていると見た。俺が思っている以上に料理に対する思い入れが強いのかもしれないな。
朝食を食べた俺たちは登校の準備を整え、家を出た。
「いってらっしゃいなのじゃ、二人とも。ほれ、それぞれの弁当じゃ。赤い方がハルカ、青い方がアキヒロじゃ。間違えるでないぞ」
「おう。サンキュな。いってきまーす」
「朔夜ちゃん、ありがとね。いってきます」
「うむ!」
朔夜は満面の笑みで俺たちを見送ってくれた。心なしか、昨日までと比べ肩の力が抜けているように見える。
「あっくん。今日は朔夜ちゃんに体液飲ませてもらわなくていいの?」
「ああ、そういやもらってないな。ここ毎日もらってたし、吸血鬼になりたては一、二日に一回吸血が必要って言ってたから、一日ぐらい大丈夫だろ」
「不安だなぁ。……私、ドナーだし。もしもの時は、言ってね」
驚いて隣を見ると、遥が前を真っ直ぐ見ながら耳を赤くしていた。
すんなりドナーを引き受けてくれたもののやはり体液を提供するのには抵抗があるらしい。当たり前か。
しかし、もしもの時は言って、か。何の体液をくれるのだろう。汗? それとも……。
がああああ俺は朝っぱらなんてこと考えてるんだ! そんなことより修行だ修行! 遥と会話していない時はひたすら舌の運動! 上下左右、口腔内でいかに速く動かせるか!
それから会話らしい会話もないまま学校に着いた。
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