地獄の朝食タイム

 あのドギツイ事件から数時間経ち。

 俺はようやく平穏を手にすることができた。

 自分の部屋。自分のベッド。至福の時。

 色々考えるべきことはあるが、今はとにかく寝たい。疲れた。限界。無理無理の無理。残り湯のおかげで身体の調子はすこぶるいいが、いかんせん精神の方が疲れ切っている。

 部屋には鍵をつけた。朔夜が勝手に入ってこないようにするためだ。遥がそうしろと命じたわけではなく、俺が自分でつけた。トラブルの種は排除するに限る。

 鍵をつけたことによって得られた安心感も手伝い、ベッドに入って数分経たずのうちに眠気がやってくる。

 さあ、眠気の手をとって夢の国へ。人は寝ている間だけ救われるのだ。

 意識が薄まっていく。

 


「あっくん、あっくん。ふぇ、ええ」


 遥が泣いている。

 幼稚園の制服のすそを強く、しわが寄るほど握りしめて。

 頬を伝う涙が制服の襟を湿らせていく。

 昔の夢、か。遥が、本当に久しぶりに泊まりに来たから、こんな夢を見るのだろうか。

 なんでこの時、遥は泣いていたんだっけか。

 とにかく、遥が今まで見たことないくらい悲しんでて。

 で、俺はとにかく励まそうと、必死に何ができるか考えていたような気がする。

 それで、確か……当時、すごいすごいと褒められていたことがあって、それをしてあげて。

 夢が、俺の予想を裏打ちするように動き出す。

 幼い俺が、何か遥に話しかけて、それで。

 遥の涙を舐めだした。



「うわぁぁぁぁああああ!」


 夢の内容がショッキングで目を覚ました。

 なんて恐ろしい夢だったんだ。夢の中でまで体液を求めるとかもう重症だよこれ。

 あー遥に顔合わせるの気まずいなー。泣いてる女の子の涙舐めるとかどこの変態だよー。変態度合いで言ったら汗舐めたりリコーダー舐め回したり残り湯飲んだりも大概だけど。あ、やばい死にたくなってきた考えるのやめよ。

 伸びをして、掛け布団を外す。

 そこには当たり前のように下着姿の朔夜がいた。

 昨日は黒の下着だったが、今度は紅。細身で、胸もそんなにある訳じゃないのにエロい。もう単純にエロい。肌の白さとかうっすら浮き出たあばら骨とかもうね。

 って違う違う。考えるべきは

 おいおいおいどういうことだってばよ。あれ、鍵かけたよね。遥が一緒に寝て見張っていてくれてたはずだよね。あれれぇ、おっかしいぞぉ。

 何かされる前に、こっそり抜け出そう。

 ベッドから降りようと身体を動かした瞬間、安らかな寝息を立てていたはずの朔夜の手が俊敏に動き、俺の脚を捕らえた。


「なんで!?」

「おはようじゃ、アキヒロ。いや何、ぬしに朝のほどこしを、と」

「ほ、ほどこしってまさか」

「今日はぬしの為になんとニーソックス二重履きじゃ。より鮮麗された体液となっておることじゃろう」

「なんてことしてくれるんだあんたはぁ! ありがとうございますありがとうございますぅ!」


 話してる途中で切り替わってしまった。微かににおいが漂ってきて、俺の鼻がそれを感知してしまったがゆえに。  


「アキヒロ、ぬしは本当に欲しがりなやつじゃのう。しかもこんな朝っぱらから。吸血鬼としてなんと見込みのある男よ。よし、では……」


 朔夜がニーソを脱いでいく。一枚目はそんなに重要ではない。摂取するとしたらより味が染み込んでいる二枚目。

 さらに言うならやはり、素足。もう俺の頭はそこにしゃぶりつくことしか考えられない。

 二枚目が剥かれ、輝くばかりの白い素足が現れた。

 感動で身体が震える。早く早く早くぅ!

 舐めにかかる俺を、朔夜は心底楽しそうに見ていた。

 舌が足先に到達する直前、対象物が不意に視界から消える。

 代わりに、突き出された俺の頭に、ごちそうが振り下ろされた。


「むぐっ」

「ふふふ、すぐにはやらん。かわいくおねだりしてみたらどうじゃ?」


 ひどい! ひどすぎる! 自分から差し出しておいて!


「ご主人様おねがいいたします。下賤なわたくしめにお慈悲を! どうか!」

「もっとじゃ」

「豚になります! ぶひぶひ!」

「ふんっ!」


 俺を踏む足に力が込められる。痛い。痛いはずなのになんだろうこのキモチは。


「ぶひぃぃぃぃいいいい!」

「うむ。合格じゃ。存分に味わうがよい」


 あ、ああ。ああああ!

 滑らかな白坂。そこを何回も往復する。そうする度に口一杯に広がる芳醇な味。

 朔夜もなぜか興奮しているようで、追加の汗が補充される。

 一晩醸成された汗も素晴らしいが新鮮な汗もまたイイ。

 舐めて舐めて舐めまくる。ああそうか、俺は舐めるために生まれてきたんだ。

 飽きるまで舐め尽くした後、快楽で埋め尽くされていた頭が徐々にクリアになっていく。

 狭まっていた視界も広がり、そこでやっと気づいた。

 俺の部屋のドア。開けられたそこで、遥が尻餅をついてこちらを見ていることを。 

 目が合った。遥は怒っているせいか、はたまた悲しんでいるせいか、涙目になっていた。

 口は半開きになり、あわあわと微かに震えている。

 どん引き。これは間違いなくどん引きしている。こんな場面を見てどん引きしないはずがない。

 俺は天を仰いだ。ふっ、涙がちょちょ切れそうだぜ。


「どうしたアキヒロ。そんな乾いた笑いなど。ごちそうさま、がまだじゃろう?」

「……ごちそうさまでした。大変おいしゅうございました」


 あーもう無理。紐なしバンジージャンプしたいなーどこでできるんだろう。

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