騒がしい教室

「ロックロックるおおおおぉぉぉぉっく! おい月瀬、お前、ついにやりやがったな! 抜け駆けは許さない!」

「な、なんのことだよ」


 原田の目が血走っていて殺意にまみれていたため、教室に踏み入れかけていた足を引っ込める。


「ロッキュー! とぼけるな! 恋人同士でのみ着座を許された、中庭のベンチ。そこに陽向さんと座ってったってことは、そういうことだろ! 爆発しろリア充!」


 叫びとともに突き出されるエレキギターのヘッド。鳩尾に突き刺さる前に真剣白刃取りの要領で受け止める。


「ちげぇって! 普通に飯食っただけだし、そんな噂、決まり? なんて知らなかったし!」

「ロッ! オレは見たぞ! 陽向さんの手作りだと思われる弁当を受け取っているところを! 頭をなでてもらっているところを!」

「それは単に幼なじみとしてだな」

「ロックゥ! そんな絵に描いたような理想的な幼なじみが存在するはずがない!」

「存在するんだよ現に!」

「ロッキン! だとしたら恋人じゃなくてもそんな異性の幼なじみがいるのが羨ましいんじゃボケー! 成敗!」


 真っ赤なエレキギターが押し込まれる。すさまじい力だ。だが、押し負けない!


「ええい、しつこいぞ! 俺が遥をそういう目で見てないって何度言えば分かるんだ! そんなに女の子と仲良くないたいなら加藤とよろしくしたらどうだ!」

「ロオオオック! やつは女じゃないっつーの!」

「そう! 俺もそんな感じなんだよ!」

「ロク! 陽向さんと加藤はどう見ても別の生き物だるぉ! 陽向さんはどこからどう見ても女の子、だが加藤はゴリラだぐほおぁ!」


 原田のわき腹にねじこまれる、スラリと長い脚。加藤さんのものだ。


「聞こえてっぞ人間に進化しきれなかった股間ミジンコ野郎! ってそれより遥! どういうこと!? 月瀬とはそんなんじゃないって話、嘘だったの!?」


 俺と原田の小競り合いが、加藤さんによって終息してすぐ、隣で同じような問答がはじまった。


「嘘じゃないよ~。あっくんも言ってたでしょ。お互いそういう目で見てないんだって」

「なのにあんなイチャイチャできるものなの?」

「まずイチャイチャしてるっていう感覚がないからね。弟と接してるみたいな?」

「でも月瀬は血が繋がってるわけじゃないし、完全な赤の他人でしょ? 恋愛方面に発展しないって断言できるの……?」

「それは……」


 遥は、なぜかチラリとこちらを見てきた。何を言うでもなく、ただこちらをじっと見つめてくる。

 なんだ? 俺に何を求めてるんだ? 遥は感情がそこそこ表にでるから普段は大体何が言いたいのか察せられるんだけど、今はいかなる感情も読めないポーカーフェイスのため、とんと検討がつかない。

 会話の流れから適当に発言しておこう。


「そりゃあ断言できるだろ。今の今まで俺たちが良好な幼なじみ関係を築けていたのが何よりの証拠だ。年頃の俺たちがだぞ?」


 俺がそう言うと、遥は無表情のまま、コクンと頷いて、


「ま、そういうことだよカトちゃん。さ、授業始まっちゃうしみんなそろそろ席につこうね」


 そう言い残し、ひょこひょこと自分の席へ。

 加藤さんは不完全燃焼ですと言わんばかりにため息をついたのち、近くでうずくまっていた原田の脛に一発入れてから席へ。

 原田はわき腹に添えていた手を脛へ移し、片足立ちでピョンピョン跳ねていた。


「あんのアマァ! 許さん、許さんぞぉ! 今度のライブ用に神曲作って度肝抜いてやらぁ!」


 う~ん。俺は原田と加藤さん、相性良いと思うんだけどなぁ。お互い何かきっかけさえあれば異性として意識するだろうと個人的に踏んでいる。

 俺は飛び跳ねている原田の腕を引っ張って席に誘導し終わった後、自席へ。

 俺の席は窓際から数えて二列目の一番後ろ。

 ちなみに窓際一列目、一番後ろの席という、サボり魔にとって楽園とも言える席にいるのは遥だ。つまり、俺の隣の席である。

 席が隣同士になるのは今までの学校生活の中ではじめてのことだ。俺的には非常にありがたい。仲がそこまで良くない、あるいは悪いやつと隣になるより、気心の知れたやつのがよっぽどいい。

 遥は六月の、爽やかな青空を眺めていた。窓から吹き込む風が、遥のやわらかそうな髪をそよそよ揺らしている。

 遥は何か悩みがある時や考え事をしている時、よく空を眺めている。

 今は何を考えているのだろうか。やはり俺の吸血鬼関連についてだろうか。


「うぃ~っす、授業はじめっぞ~」


 数学教師の一声で、俺の意識は授業モードに切り替わった。

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