第67ターン クラッドの外道な作戦

「で、究極的な答え合わせをしてやるよ。――一〇日ほど前、ある隊商が野盗の集団に襲われ、荷物を奪われるっつぅ事件があった。そこまではそう珍しい話じゃねぇんだがな……」

 クラッドがスラスラと真実を紐解いていく……。

「その隊商はこの地方の領主・カダーウィン辺境伯から依頼を受けて、注文された品を領地の城まで届けに行こうとしてたんだよ。何でも、今はこの国の王都に居るカダーウィン辺境伯が、領地に残した家族の誰かの誕生日に際して贈った品々だそうだ。そんなわけだからかね。件の隊商にはそれはそれは精強な護衛が就いてたそうだぜ」

 このカダーウィン辺境伯領へと到着するまでは、王都でも手練れと言われる冒険者たちが。領内に入って以降は、そこにさらにカダーウィン辺境伯の私兵たちも加わっていたという。

「辺境伯……要は国境付近、それも友好ではねぇ国や、魔物モンスター共が跋扈する危険地帯と接する土地を領地とする貴族様だ。その私兵たちも屈強に決まってるよな。――そんな護衛連中が、為す術も無くやられて荷物が奪われた……。客観的に言って、襲ってきた野盗連中は只者じゃねぇと解る」

 明らかに危険性の高い野盗集団が、カダーウィン辺境伯領を闊歩している。手をこまねいていれば、領民たちにも甚大な被害が出る可能性があった。故に、カダーウィン辺境伯や王都に居る彼から領地を預かっていた部下たちは、プライドにこだわって自分たちだけで事態解決に当たっていては手遅れになると考慮し、この手の厄介事の専門機関――冒険者ギルドへと協力を求めたのであった。

 それは、王都の冒険者たちよりも、辺境で英雄視されるガストムがまとめるカダーウィンの冒険者たちの方が、実力的には上だと信頼されているからこその判断であったわけだが……。

「――何にせよ、そのカダーウィン辺境伯からの依頼で白羽の矢が立ったのがクラッドオレだったってわけだ」

 性格的にはともかく、実力的にはカダーウィン最強のお墨付きがあるクラッドである。人選は適切だったと言えよう。彼は、依頼の受諾から一日足らずで問題の野盗共が嫉妬教徒エンヴィアンの一団であることを暴き、そして彼らが住処とする地図には無い村落を発見したのだった。……だが――

「襲われた隊商、及びその護衛共の生き残りから襲撃時の話を聞いた段階で、オレには一つの懸念があった。相手が嫉妬教徒エンヴィアン共だと解った時点で、それは確信に近ぇモンになったな。……野盗共は、と。その魔物モンスターは、と。――邪神の眷属アポストル嫉妬教徒共ヤツらはそれを連れてる可能性が高ぇってな」

「クラッドさんは今回の件に邪神の眷属アポストルが関わってると解ってたんですか!?」

 驚愕するオルファリアへ、クラッドは頷いてみせる。

「というかな……

「……へ?」

 チンプンカンプンという表情のオルファリアを置き去りに、クラッドは話を続ける。

嫉妬教徒エンヴィアン共の村を発見したオレは、当初はそこをそのまま殲滅してやるつもりだった……が、ちぃと問題に直面した。んだよ。眷属アポストルは必要に応じていちいち召喚されるモンじゃねぇ。恐らくは村の外、嫉妬教徒エンヴィアン共が聖域としてるような場所に引っ込んでんだろうとまでは推理が出来たが……肝心のその場所が解らねぇ。今回の依頼は、だったんでな。嫉妬教徒エンヴィアン共を殲滅出来ても、万に一つ眷属アポストルを逃がしちまったら元も子も無ぇ……」

 クラッドが深々と溜息を吐いた。

嫉妬教徒エンヴィアン共を問答無用で全滅させる前に、何名かを人質にして眷属アポストルを誘き出す。或いは、嫉妬教徒エンヴィアンのどいつかを痛め付けて眷属アポストルの居場所を吐かせる。色々と策を考えたが……最終的にオレが取ることにしたのはだった」

「「「「……んんっ?」」」」

 クラッドの言ったその単語に、オルファリア、ディアス、ロレンス、そしてやっと気絶から脱したらしいピリポが一斉に眉をひそめた。

(……何だか……読めてきた気がする……)

 オルファリアの瞳が、段々とジトッとした色を帯び始めた。それでもクラッドは何処吹く風。真相を語るのを止めはしない。

「オレは一旦嫉妬教徒エンヴィアン共の村は放置し、カダーウィンに取って返した。そこで何をしたかは、ディアスたちオマエらの知っての通りだ。オルファリアを連れて、改めて問題の村を訪問したんだよ」

 あくまでも、そこが嫉妬教徒エンヴィアンたちの村とは知らず、偶然に立ち寄って一夜の宿を求めた風を装って。……そうすると、嫉妬教徒エンヴィアンたちはどう出るか?

「元から強盗や略奪で糧を得てるような連中だからな。普通にオレとオルファリアを、飛んで火にいる夏の虫だと考えるだろうぜ。捕まえて、身ぐるみ剝いで、オルファリアみてぇな美人はお楽しみに使う。……はっ、まさかオレまでお楽しみに使おうとするとは思わなかったけどよ」

「……ちょ、おまっ……クラッド!! お前、それを承知の上でオルファリアをこんなとこへと連れて来たのか……!?」

「ふ……ふざけるな! オルファリアを、彼女を何だと……!!」

「……あー、これは……流石においらもキレていいかなっ……!?」

「……話はまだ途中だ。黙って聞きやがれ」

 激憤を醸し出すディアス、ロレンス、ピリポに、クラッドは扇ぐように手を振って話を続行する。

「オルファリアでお楽しみと行くにしてもだ。嫉妬教徒エンヴィアン共の風習や性質から言って、その乱交に参加出来ねぇ仲間外れは絶対に作らねぇ。村中の男共はもちろん、とオレは踏んだ。つまり、。そこを一網打尽にしてやろうってのが、オレの作戦だったんだよ」

(…………ああああっ! クラッドさんっ、こ、この人はっ……!!)

 自分オルファリアを、――その事実を突き付けられて、オルファリアは悔しいような哀しいような、複雑な気持ちになる……。

「……あの村が普通の村じゃないって……真実に辿り着き掛けたわたしを魔法で眠らせたのは、そうしないとわたしが逃げるって、眷属アポストルを釣り出す餌として使えないって思ったからですか?」

「その通りだぜ」

「…………っ!」

(クラッドさんは、全然、一切、わたしのことを信頼も信用もしてくれてなかったんだ……)

 冒険の『仲間』ではなく、『道具』、もしくは『手駒』としか考えていなかった。……実の父かもしれない相手にそんな扱いをされて、締め付けられた胸の痛みがオルファリアの瞳を涙で潤ませる……。

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