第66ターン シチューについての答え合わせ
――第一の疑問である。
「ク……クラッドさんは、
「当たり前だろうが。あんな素人に毛が生えた程度の雑魚中の雑魚の
ひとまず羞恥心の波を乗り越えたオルファリアが、おずおずとクラッドに問い掛ける。それに、呆れ返った様子で彼が返答した。
「で、でもっ、夕食に大量の薬が……眠りや麻痺をもたらす薬が混ざっていたって――」
「オマエを魔法で眠らせた後、胃の中のモンは全部吐き出した。経口摂取の睡眠薬や麻痺毒は、体内で吸収が始まるまでは効果を発揮しねぇ。消化も終わってねぇ内に吐き出して、毒消しの
……では、どうして
「オルファリア、オレはオマエを魔法で眠らせた後、《
「――そ、それはおかしいわっ!! それでは最初から、こちらが張っていた罠に気付いていたことになってしまうわっっ!!」
オルファリアへされたクラッドのさらなる回答を、否定する声が上がる。……この邪神殿の入口前に放置された簀巻きの女
「だから、最初から気付いてたんだっつぅの。オマエらが
「……な、何故――」
「シチュー。それも、牛乳をたっぷりと使ったホワイトシチューだったからな。オレは当然、オルファリアだって気が付いてたぜ?」
オルファリアもコクンと頷いたクラッドの主張。しかし、ようやく上体を起こしたロレンスはそれに首を傾げる。
「……ど、どういうことだ? どうしてホワイトシチューでそんな――」
「――いや、ホワイトシチューは普通に変だろ?」
むしろ、そんな風に言うロレンスこそ理解出来ない……そのような弁を発したのは、なんとこちらも身を起こしたディアスであった。ロレンスの美貌が、相当なショックを受けたように固まる。
「……ディ、ディアスに理解力で負けただと……!? 僕の頭はぶつけて変になってしまったのかっ……!?」
「ロレンス何だとこらぁっ!?」
「……うるせぇぞ、脇役共。――ま、いい。少しは出番を与えてやるぜ。そっちのチビな茶髪。どういうことなのか黒肌のハーフエルフとあっちのババアに説明してやれ」
「チビは余計だクラッド!! ……はあ。要は、このカダーウィン地方じゃ入手が困難なはずの牛乳を何処から手に入れたかって話だろ?」
クラッドに促され、ディアスが渋々といった感じに語り出す――
「牛乳は、もちろん乳牛から搾るよな? つまり、酪農をやってる土地でしか入手出来ねえ。けど、この村もそうだけどよ。カダーウィン地方は根本的に酪農には向かねえ土地なんだ」
年間を通じて気温も湿度も高く、雨も多い。加えて、そのせいで木々も良く育ち、広域に森が繁茂している。それがカダーウィンを中心とした地域の特徴だ。即ち、牧場を開墾するにも森を切り拓く手間が掛かり、そうして苦労して牧場を拓いたとしても、雨のせいで満足に牛を放牧出来ないということである。
「酪農は、どれだけ牛に快適な環境を用意出来るかで決まるもんだからな。この地方は、最初から牛にとって快適とは程遠い環境なんだよ。自由に動き回れる土地が少ねえし、雨にも嫌というほど当たる羽目になる。しかもくそ暑いしな。そんな土地じゃ、牛もストレスを溜めたり体調を崩したりして、満足がいく質と量の牛乳を出しちゃくれねえんだよ……。だから、この辺りで牛を飼ってて、しかも牛乳を搾ってる所なんて皆無に近えはずなんだ」
深々と溜息を吐くディアスの言葉には、何故だか実感が籠もっていた。
「その上、気温も湿度も高くて雨も多いってことは、食物が傷み易いってことだぞ? ただでさえ傷みが早い牛乳を保存する難易度が跳ね上がるんだぜ? だから、カダーウィン地方では、牛乳を流通に乗せる時は保存用の魔法が掛かった特別な容器を必要とするんだよ。そのせいで値段が桁違いに高くなるんだ……。一般庶民には絶対手も出せねえよ」
「……ディ、ディアス。僕は出会ってから始めて、貴様を見直したかもしれない……。意外な博識だ……」
「………………」
珍しくもロレンスから称賛を受けたディアスは、なのに何処か不服そうに口を噤む。黙ってしまったディアスがもう喋りそうにないことを見て取ったクラッドは、後を継いで
「パッと見ただけでも、
そこが、オルファリアも夕食の途中で引っ掛かったのである。……どう考えても、あの村にはあるはずが無い牛乳があった……。その時点で生じた違和感が、オルファリアの村人たちへの警戒を跳ね上げたのである。
「……それにしても、シチューの不自然さを察してた割には、オルファリアは平然と出された夕食を食ってやがったが。毒入りだったとしても、魔法で解毒出来る算段だったのか?」
「……ま、まあ、そんなところです、クラッドさんっ」
(……本当は、
そこは流石に正直には言えないオルファリアだった……。
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