第58ターン 不可解さ

「皆……ディアスくんもロレンスくんもピリポくんも……夢じゃ、ないですよね……? 何でここに……? カダーウィンから大分離れてるはずなのに……?」

「虫の知らせっつうか……嫌な噂を聞いて居ても立ってもいられなくなったっつうか……」

「……ディアス、今さら取り繕っても仕方がない。オルファリア、実は僕たちは、今日は最初から君とクラッドの後を追っていたんだ。君とクラッドが二人きりというのは、心配で……」

「……まあ、カダーウィンを出てすぐの所で一度見失っちゃったんだけどねー……。いきなり飛ぶとは思わなかったからさぁ……」

 オルファリアの問いに、ディアスもロレンスもピリポもばつが悪そうな顔で白状する。即ち、オルファリアがクラッドによってカダーウィン上空へ攫われた折に聞いた悲鳴は、彼らのものだったのだ。……あの時、三人は一度オルファリアたちの追跡を断念したのだそうだが――

「――冒険者ギルドに戻ったらメイリンさんが来ててさ。俺たちがあんまりにも気落ちしてたせいか、事情を聴いてくれて……そしたら、を貸してくれたんだよ」

 ディアスが少し後方の空中を指差すと、そこに半透明の、エルフの女性に似た裸身が現れた。オルファリアが目を見張る。

「シルフ……風の精霊エレメンタルですかっ?」

「メイリンは何年か前までは冒険者で、等級レベルもクラッドほどではないがそこそこ高かったのだそうだ。あの人が自分の使役するシルフへ、僕たちへの協力を命じてくれて……このシルフの力を借りて、僕たちはオルファリアたちへ追い付いたんだ」

「……まあ、メイリンちゃん、ちょっと様子が変だった気もするんだけど……? ともかく、このシルフちゃんに空気中に残ったオルファリアちゃんたちの匂いを辿ってもらって、移動も風で空を運んでもらって、やっと追い付いたと思ったら……ぐったりしたオルファリアちゃんが得体の知れない連中にこの遺跡へ運び込まれるのが見えてさー。慌てて追い掛けたんだ」

 ロレンスとピリポが補足する。シルフの力で姿を見えなくしてもらった三人は、嫉妬教徒エンヴィアン共の儀式を暫し見守り……明らかに堅気ではないと判断して奇襲に打って出たのだそうな。

 仲間たちの説明を頷きながら聴いていたオルファリアは……そこでふと、気付いてしまう。

「……あ、あのっ! じゃ、じゃあ皆、わたしが嫉妬教徒エンヴィアンたちに、い、色々とされてたの……み、見、見見見見て……!?」

 ……動揺するオルファリアにピリポは満面の笑みで親指を立て、そんな変態小人の後頭部をぶん殴ったディアスとロレンスは並んで土下座し、額を石畳へ霞むほどの速度で打ち付ける。冒険仲間たちにあそこまで恥ずかしい場面を見守られていたと知ったオルファリアは、地面に突っ伏して羞恥に身悶えるしかなかった……。

 そんな時でもマイペースなのがピリポ。彼は後頭部をさすり、周囲を見渡して首を捻る。

「……ところでオルファリアちゃん、クラッド・イェーガーは何処? オルファリアちゃんのピンチを放っておいて、あいつ何処で油売ってるのさ……?」

「っ!? そ、そうですっ。わたしだけじゃなくクラッドさんも大変で! 早く助けに――」

(…………あれ?)

 そこで、オルファリアは違和感を覚えた。改めて古代神殿の中を見回す。……嫉妬教徒エンヴィアンの男たちは一人残らず地に伏して、気を失っている者が大半だ。ロレンスの魔法で焼かれた村長を始め、どうにか意識を保っている者たちも唸るのが精々でピクリとも動けないでいる。

「……あ、あのっ、いきなりでごめんなさい! 皆の等級レベル、今いくつでしたか!?」

「? 俺は【Ⅱ】だぜ」

「僕も【Ⅱ】だが……?」

「ふふふっ……実はおいら、【Ⅲ】なのさ!」

「「何……だと!?」」

 衝撃の事実に戦慄するディアスとロレンスはさておき、オルファリアは黙考する。

(いくら奇襲が上手くいったとはいえ、等級レベルが【Ⅱ】や【Ⅲ】の、まだまだひよっこの冒険者一行パーティで全滅が出来る……ここの嫉妬教徒エンヴィアンたちはそんな程度の相手だったってことだよね……)

 ……その程度の相手の討伐に、冒険者ギルド・カダーウィン支部は等級レベル【ⅩⅣ】のクラッドを派遣した。そこにオルファリアは腑に落ちないものを感じる。

(ま、まあ、クラッドさんは現実にはその相手にやられちゃったらしいけど……。でも、普通に考えれば冒険者ギルドのこの判断はおかしいよね? 等級レベル【Ⅱ】や【Ⅲ】の冒険者でも討伐出来る相手を倒す為に、等級レベル【ⅩⅣ】の冒険者を送り込むなんて……戦力が過剰過ぎる)

 まるで――。……オルファリアは、ゴブリン退治と聞いて赴いた先でマンティコアと遭遇した先日の一件を思い出し、辺りの暗がりへ目を凝らした。

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