第54ターン 危機、迫る

「何やら凄腕の冒険者とのことでしたが、恐れるに足りませんでしたな! こちらが提供した食事を疑いもせずバクバクと食べて……その中にたっぷりと睡眠薬や麻痺毒が混ぜられているとも気付かずに!! 我々が襲撃に行ったら、家の床でのたうち回っておりましたよ……!!」

「嘘……そんなはず……!?」

(クラッドさんが……負けた? 嫉妬教徒エンヴィアンたちに捕まった……? そんなこと……!?)

 村長が語った事実が受け入れられず、オルファリアは混乱の渦中へと突き落とされる。……だが、震度を増す己の心の揺れと向き合っている暇は、彼女には無かったのだった。

「ふふふふ……この期に及んで恋人の心配とは健気なお嬢さんだ。ですが、彼氏の心配ばかりしていていいのですかなぁ? ふふふふふふ……! そのいたいけな顔がこれからどのように泣き叫んで――いつ諦めて快楽に蕩けるのか、今から楽しみですぞ!! なあ、皆!?」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお――――――――――――っっ!!」」」」」

「…………えっ……!?」

 村長の煽りに神殿がビリビリと震えるほど咆哮する嫉妬教徒エンヴィアンの男たち。中には腰布の前部を膨らませている者も見られた。それに、オルファリアも嫉妬教エンヴィズムの重大な風習を思い出す。

(そ……そうっ。さっきこの人たちは、クラッドさんも『お楽しみの真っ最中』って言ってたじゃない! 嫉妬教エンヴィズムは……嫉妬教徒エンヴィアンたちは――)

 極論を言えば、自分たち以外の全ての者を略奪の対象とする嫉妬教徒エンヴィアンたちであるが、意外にも彼らは同じ嫉妬教徒エンヴィアン同士では協調性が高く、深い信頼を寄せ合う。自分が奪ってきたものを独占せず、仲間と均等に分配し、分配出来ない類いのものは共有財産とするのだ。

 ただ、それを一概に「嫉妬教徒かれらにも人間的にマシな部分がある」と言う理由には出来ない。それが原因で嫉妬教徒エンヴィアンたちの中に、あるおぞましい文化・風習が根付いているのだから……。

 ――捕らえた異性を、同胞たちとという文化・風習が。

(か……嫉妬教徒かれらにとっては、捕まえた他教徒は奴隷や家畜同然のものっ。共有財産として、同胞たちと一緒に使い潰していくのが常……)

 労働力……或いはとして。

 村長の説明を信じるなら、今クラッドはその役割を嫉妬教徒エンヴィアンの女たち相手に強いられており――オルファリア自身も、これから男たち相手に強いられようとしているのだ。

「な……何でそんな真似を!? 皆さんの中にも、好きな女性や愛する奥さんが居る人が居ますよねっ!? その人たちが同じ目に遭ったらと、そう考えたことは――あ……」

(……嫉妬教徒エンヴィアンにはその教えの性質上、『不貞』という概念が無くてっ。それ以前に『婚姻』の概念も無くて、彼らの集団の中では全ての女性が等しく全ての男性の妻であって、反対も然り……だったはず! ……なら、村長さんの奥さんも、実はそのふりをしてただけで――)

 ――村長の本当の意味での妻ではなかったのだと、オルファリアは思い到る。故に、この場の男たちに伴侶の女性に対する貞節を説くのも無駄だと思い当たった。彼らには、同胞の女共がクラッド相手に楽しんでいることを咎める空気など無く、また、同胞の女性たちに配慮してオルファリアを犯すことを躊躇する者も皆無。それが嫉妬教徒エンヴィアンの常識なのだ……。

 数十人もの男たちの爛々と輝く眼が、オルファリアの貫頭衣型の法衣に包まれた肢体を映す。一四歳を装う実際は一二歳の少女の、細く小柄な体躯の中で、それでも分不相応に発育した胸の膨らみやお尻の丸みに、特に欲望に滾る視線が絡み付いた。

「……ひっ……!?」

 オルファリアの喉から小さく悲鳴が漏れ、奥歯がカチカチ鳴る。如何に本性が淫靡なる悪魔サキュバスでも、オルファリア自身は未だ男を知らない、献身の教えに従って純粋無垢に育ってきた処女おとめなのだ。今日、この場で自分の純潔が失われる……数十名もの暴漢たちに輪姦されて奪われるという悲劇の未来を示されて、気丈でいられるわけがない。

 蒼ざめて震えるオルファリアに、嫉妬教徒エンヴィアンの男共の嗜虐心は膨張し、頂点へと達しようとしていた……。

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