第45ターン メイリンの懸念、クラッドの呆れ

「今回オレが受けてる依頼、な。……その依頼が厄介なことになってんだよ。だから、オレは一旦カダーウィンに戻ったんだ。僧侶クレリック……それも若い女の僧侶クレリックが要る。オレだけじゃ、あの依頼は達成出来ねぇ」

「……普段、『仲間は居るだけ邪魔』とか宣ってるくせに……」

「それくれぇの建て前と実情を使い分けねぇと、【ⅩⅣ】の等級レベルには辿り着けねぇよ」

 メイリンが言外に「恥を知りなさいよ」と滲ませたが、クラッドは飄々と受け流す。

「……けど、この街の女の僧侶クレリックは、オマエの昔の仲間のババアは歳を喰い過ぎてるし、他二名はオレの誘いに絶対乗らねぇからな。オルファリアを誘うしかなかったんだよ」

「……それはあんたの自業自得じゃないのよ……」

 メイリンがクラッドにツッコむ。クラッドの女性関連の悪名は、カダーウィンの女冒険者の間で知れ渡っていた。今や彼と冒険を共にしようという女冒険者など皆無なのである。

 オルファリアのように冒険者となって日が浅く、クラッドの噂を知らない者以外は……。

「……あんたの事情は解ったけど、それでオルファリアさんに何かあったらただじゃおかないわよ? 覚悟は出来てる……?」

 凄むメイリンの金髪が風に煽られたように浮く。透かし彫りから風が吹き込むカダーウィン特有の建築でも、ここまでの風の流れは不自然だ。クラッドの眼力は、彼女の傍らにエルフに良く似た半透明の裸身の乙女を複数捕捉する。

「『シルフ』――を仕舞え、メイリン。そんな態度だとオレも手加減しねぇぞ?」

 対して、クラッドがオーラを纏う。己の精魂アニマを高めているのだ。クラッドは当然のことながら、メイリンの側も強力な魔法使いである。『精霊使いエレメンタラー』と呼ばれる彼女たちは、自然現象を司るエネルギー生命体・『精霊エレメンタル』を使役し、自然の猛威を再現出来た。両者の激突は、この屋敷を瓦礫の山へと変えかねない……。

 暫し両者は睨み合い……意外にもクラッドが折れた。高めた精魂アニマを引っ込める。……折角の屋敷を失うのは勿体なかったのかもしれない……。

「曲がりなりにも『冒険』に行くんだ。全く身の危険が無いわけがねぇ。オルファリアもその辺は解ってるだろ。そこをとやかく言う資格はオマエにも無ぇよ。……だが、オレが同行するんだ。無惨なことにはさせねぇよ。それとも、オレの実力まで信じられねぇか、メイリン?」

 少なくとも、オルファリアに決定的な危険が降り掛からぬように自分が守ると、クラッドは約束してみせた。それに、メイリンは風の精霊シルフたちを大気中へ回帰させる。

「……あんたの実力は、あたしも信頼してる。そこは信じてやるわ。……でも、の方も心配なのよ、あたしは!」

「……あん?」

「だから! あんた、この機にオルファリアさんにまで手を出す気じゃないわよね!? 本気でやめてよ!? そういうので心が折れる女冒険者も多いんだから!!」

 例えば、オークなどの他種族の女性を繁殖対象とする魔物モンスターに敗れ、犯される。または、同行した男の冒険者の欲望に晒され、身を穢される……。そんな悲劇に遭い、トラウマから冒険者業を引退してしまう女性は決して少なくない。

 そういう出来事を乗り越えられるタフな女性冒険者も少なくはないが、心は大丈夫でもに別の原因が生じ、冒険者を続けられなくなるケースもあり得るのだ。そこはメイリンも……彼女自身は自分も望んでの行為の果てにだったが、身を以って知っている。

 メイリンがオルファリアとクラッドの間でナニを心配しているのか完璧に悟って、クラッドは心底脱力した表情になった。

「……何だよ、結局嫉妬か?」

「全然違うわよ、そこは本気で!」

 喚くメイリンをクラッドは面倒そうに見詰め――胡坐の姿勢から一気にその身を跳ねさせた。メイリンが「え……?」と呟く間に、彼女を三度みたび押し倒したクラッドは、そこからメイリンを俯せに返して腰を、お尻を高く上げさせる。

「ちょ、ちょっとクラッド!? 一体何の真似――」

「――そんなにオルファリアの操が心配なら、今夜の内にオマエがオレを枯れさせとけば済む話だろうが。数日間は勃たなくなるくれぇに」

「な、何でそんな理屈になるのよ――ああっ!?」

 戸惑うメイリンを無視し、クラッドは今度こそ彼女の内へと再突入する。押し入ってくるクラッドの存在感に、メイリンの背が反り返った。

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