第43ターン メイリンが『こう』する理由
自分の耳から首筋、鎖骨と順番に吸っていくクラッドの肩越しに、メイリンは窓の外……そのさらに彼方を見詰めた。故郷だった国を幻視するように……。
(あたしを連れ戻す……それだけだったら、あたしは涙を呑んで従ってたかもしれない……)
小国でも相手は一つの国家だ。それに抵抗するのは、メイリンは元より、元は高位冒険者で英雄視されているガストムでも容易ではない。ガストムとアニエに迷惑を掛けぬ為、自分一人が犠牲になるのは、メイリンとしても充分選択肢に入っていたのである。
けれど――クラッドに再びベッドへ押し倒された衝撃と同時、メイリンはあの日の精神的な衝撃も思い出す。
(だけど……お父様は、あの国は、ガスとアニエまで害そうとしたわ……!)
彼の国の理屈では、
結果、メイリンとて夫と娘の命まで脅かす相手に従うことは出来ず、実の父からの追っ手を返り討ちにせざるを得なかったのである。
……ただ、それで手を引くような生温い相手ではなく……メイリンの父は、次は国を挙げ、総力を懸けてカダーウィンを攻めようとしたのであった。
「ん、んっ……んぁっ、あっ、あっ……!」
再度クラッドに唇を吸われ、加えて細やかな胸の先端部を摘み上げられながら、メイリンは当時を反芻した。
カダーウィンを擁するこの国は、大陸全体でも大国である。歴史が古いだけの小国が攻めてきても打ち破っただろうが……それで流されることになる血をメイリンは甘受出来なかった。
戦争自体を止める為にメイリンが思い付けた手段は――冒険者に依頼を出すことだけだったのである。
「くぅっ……くひぃっ……ひぃぁんっ」
その依頼を受けた冒険者の中に――今、メイリンの胸の突起をつねり上げているクラッドも名を連ねていたのだ。
大陸全体でも優秀とされるカダーウィンの冒険者たち、その中でも
小国とはいえ一つの国家の暴挙を止めたのである。その依頼へ参加した冒険者たちには莫大な報酬が与えられた。ある者には、メイリンが歴史だけは途方もない祖国より慰謝料代わりに接収した、神話の時代より伝わるとされる武具を。ある者には、そういう宝物を売って作った膨大な金銭を。……そして――
「――ひぁっ! あっ、ぅあっ、あっ、あっ……あひっ!?」
……クラッドが望んだ報酬こそが――メイリンとのこの関係だったのである。
より詳しく言えば、クラッドへの表向きの報酬は彼が今愛用する杖だ。みすぼらしい見た目に騙されるなかれ、あれも神代から伝わるとされる一品なのである。
それでも……クラッドは報酬に不満を言ってきた。それをメイリンが突っ撥ねられなかったのは、彼女と祖国を巡る一件で最も成果を上げたのが彼だからである。無碍に出来ぬ相手からの追加報酬の要求に、彼女は悩んで……受け入れてしまったことは、今では重い後悔として胸の底に積み重なっていた。
(……漠然と、予測はしてたのよね……)
――当時のメイリンも、クラッドが自分との肉体関係を報酬として望むのではないかと、彼が彼女の依頼に手を上げた段階で考えてはいたのだ。
「あぁっ、ひゃっ、ひゃぁっ……! うぁっ、うんっ、うぅぁああんっ……!!」
メイリンの胸を吸い立て、左手で彼女の尻を撫で、右手の指を二本、三本とメイリンの太股の付け根で蠢かせるクラッド。……彼の悪評は数あれど、その中で最大に被害者を抱えるのは女癖の悪さに他ならなかったのだから。
目を付けた女性はどんな手を使ってでもモノにする。……中には、他の男性と結婚間近だったにもかかわらず、魔法で眠らされて初夜を強奪された娘も居るとか……。
その上、守備範囲も広大。上は熟女の人妻から下は年齢一桁の幼女まで対象にするという。……嘘か真実か、ボルドントの三〇代半ばの一番目の妻と関係を持った翌日に、その娘である九歳の少女の、初潮も迎えていないカラダを平らげてしまった……とか。
クラッドの毒牙に掛かった女性は、カダーウィンだけも一〇〇では足りないはずだ。
(……その一人であるあたしだからこそ――今回の件は、見逃せないのよ!)
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