第39ターン 〝暴君〟の片鱗
「ク、クラッドが……他の冒険者に同行の誘い? あの単騎駆け至上主義者が……!?」
「どういう風の吹き回しだ……? しかも、彼女の
「ヤバい。今日は昼から嵐になるか? それとも火山でも噴火するか……?」
熟練冒険者たちが戸惑う中、ひよっこ冒険者――ディアスとネルソンは激昂した。クラッドの左右の肩をそれぞれ摑む。
「おい、オルファリアは俺たちの仲間だ! 何勝手に話進めてやが……!?」
「オルファリア君は先に我々が誘っていたんだ! 割り込みはやめ……!?」
ディアスとネルソンの顔から血の気が引く。二人掛かりで全力を籠めているのに、クラッドが微動だにしない為だ。背は低いが
「うわっ!?」「うなぁっ!?」
――クラッドが軽く肩を回すと、ディアスもネルソンも振り払われた。尻餅をついた二人をクラッドが一瞥し、鼻で嗤う。コケにされた両名の顔が一気に怒りの色を帯び、彼らの仲間の男性陣も緊張を漲らせた。
自分に向けられる剣呑な眼光に、クラッドは唇の端を持ち上げるが……目は笑っていない。右手の一見雑な作りの杖の石突きが、冒険者ギルドの床をトン、トンッと打った――
「――待って下さい!! 皆に酷いことするなら、わたしは同行しません!! ……ディアスくんたちも、ネルソンくんたちも、落ち着いて下さい、ね……?」
……一触即発の空気が破裂する寸前、オルファリアが立ち上がり、一喝した。それに、彼女の仲間の男性陣は冷水を浴びせられたようにばつが悪そうな顔になる。対して――
「ほぉ……? 今の、オマエは解らなかったわけじゃなさそうだな? それでも割り込むとは……根性のある女は嫌いじゃねぇ。……
――面白そうに言うクラッドをオルファリアは睨み付けた。
(この人、今……詠唱しないで魔法を使おうとしてた……!)
オルファリアたち魔法使いが魔法を使う時に唱える文言は、必須ではない。無言でも魔法の発動は一応可能だ。ただ、使用者の集中力の低下や、正確に願いが神の御許に届かないなどの弊害から、魔法の効果も精度も著しく下がる。……だが、効果や精度が減退しても、実用性に足る魔法を発動出来る実力者も、数は少ないが居るのだ。クラッドはその実力者に含まれると、オルファリアは予感した……。
(その力を、この人は皆に使おうとしてた……一切の躊躇なく! この人が〝辺境の暴君〟ていう物騒な二つ名で呼ばれてる理由……少し、解った気がする……)
戦慄するオルファリアへ、クラッドは改めて、勝ち誇った様子で向き直った。
「ところで――『皆に酷いことをしたら同行しない』ってことは、とりあえず明日からの冒険には同行してくれるわけだな?」
「……はい。よろしくお願いします」
「え? ちょ、待って下さいな、オルファリアさん!?」
クラッドに了承を告げたオルファリアへ、アルピナが焦った声を上げる。彼女以外の男性陣など、声も出せぬまま真っ白になっていた。
「……ごめんなさい、皆さん……」
オルファリアは自分を巡るクラッド以外の全員に詫びつつも、決意を固めていた。
(
「……わたし、明日から、少しの間クラッドさんと冒険に行きます。ディアスくん、ロレンスくん、ピリポくん、ご迷惑をお掛けしますけど、わたしが居ない間、よろしくお願いしますね。アルピナさん、ネルソンくんたちも、誘ってくれたのにすみません――ひゃ!?」
一同へ頭を下げたオルファリアの肩を、横からクラッドが馴れ馴れしく抱いた。
「ま、そういうこった。オレの方こそよろしくな、オルファリア」
親しげにオルファリアを呼び捨てにしたクラッドに、ディアスたちもネルソンたちも再び憤怒の形相と化すが……この流れで彼らがクラッドに摑み掛かるのは惨め過ぎる。自制した七名の脇をすり抜け、クラッドは冒険者ギルド・カダーウィン支部を後にした。
彼を見送り、オルファリアは再びディアスたち、ネルソンたち、アルピナへ低頭する。
「本当に、お騒がせしてすみません。わたしも、明日からの準備がありますし、今日はここで失礼しますね。戻ったら連絡します」
オルファリアも冒険者ギルドの外に消え……ディアス、ロレンス、ピリポが長椅子へと倒れ込む。ネルソンたちなど、未だ石像のように固まっていた。
……アルピナは頬に冷や汗を垂らし、難しい顔をする……。
「……オルファリアさん、あの様子だとクラッドの悪い噂をご存じないのかしら……?」
「――悪い噂?」「いや、何だよ、それ?」「おいらも知らないんだけど……?」
問うたロレンス、ディアス、ピリポへ、アルピナは言葉を選びつつ噂の内容を教えていく。それを聞くにつれ、三人の顔色はどんどん悪くなっていった……。
――それを尻目に、本日掲示板に貼り出す予定の冒険の依頼書の束を抱えたメイリンは、瞳に赤熱の刃の如き光を宿し、冒険者ギルド・カダーウィン支部の出入口を凝視する。
「……あの野郎……一体何考えてるのよ……!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます