第38ターン 〝辺境の暴君〟登場

「そんなわけですから。オルファリアさんをうちの一行に、く・だ・さ・い・な・♪」

「やらねえよ! 一昨日来やがれ!!」

「そうだ! オルファリア君は我々と共にバロウラの墳墓に――」

「貴様らも他を当たれネルソン!!」

 騒々しいオルファリアの周囲に、他のより熟練の冒険者勢がやれやれという顔をする。

「相変わらず、等級レベル【Ⅱ】や【Ⅲ】の若手はオルファリア嬢の争奪戦に余念がないな」

「まあ、可愛い女の子と一緒に冒険したいって気持ちは解るけどなー」

「あら? なら誘ってみる?」

「……やめておこう。先日に等級レベルが【Ⅱ】になったばかりの娘では……な」

 耳に届いた熟練冒険者たちの会話に、オルファリアは気持ちが萎むのを自覚した。

(……そう、だよね……)

 言い争うディアスたちやアルピナ、ネルソンたちを余所に、オルファリアは己が左手の甲を睨む。そこに刻まれた等級レベルは【Ⅱ】。クラッド・イェーガーより

等級レベルの低い冒険者は、等級レベルの高い冒険者には相手にされない。それが現実。つまり、わたしも今のままじゃ等級レベルが遥かに高いクラッドさんには相手にされないはず……)

 今はまだ、オルファリアではクラッドに近付くことも出来ないはずなのだ。……近付けないなら、クラッドが本当にオルファリアの父親なのか、調べることも出来ない……。

等級レベルが【Ⅱ】に上がったくらいで喜んでたら駄目だったんだ、わたし! もっと上の等級レベルになる為に……やるべきことはたくさんあるんだから!!)

 人知れずオルファリアが気合いを入れ直した――瞬間だった。

 ――激音を上げ、冒険者ギルド・カダーウィン支部の出入口が蹴り開けられる。あまり重くもないその扉をわざわざ蹴り開けることに、実行者の傍若無人さが見て取れた。扉へ打ち込んだ長い右脚を下ろし、所々が跳ねた黒い長髪をなびかせ、その人物は入ってくる。

「……クラッド……イェーガー……?」

 誰かが呟いた。

「え? あいつ、何で?」「昨日高難度の依頼を受けて、街から出発したって聞いたぞ?」「嘘だろ……? まさか、もう終わらせて戻ってきたのか?」「奴ならあり得るが……?」

 冒険者たちに困惑が広がる。想定外の登場らしいクラッドに、様々な憶測が囁かれるが……共通するのは嫌悪と恐れだ。好意的な感情は誰からも無い。……自分の父親かもしれない人物への周囲の反応に、オルファリアは胸に切ない痛みを覚えた。

「うわぁ……あれが噂の〝辺境の暴君〟? 絡まれたら怖いなぁ……」

等級レベル【ⅩⅣ】の高位冒険者様は、わたくしたちのような【Ⅱ】や【Ⅲ】のひよっこ冒険者は眼中にもありませんわ。だからオルファリアさん、落ち着いて」

「う、うん……」

 ピリポの発言にまた胸の痛みが増したオルファリアを、アルピナが的外れに気遣う。

 そして――アルピナの推測もまた、実際のクラッドの行動とは違っていた。

「――おい! 先日、等級レベルが【Ⅱ】に上がった僧侶クレリックの女はどいつだ!?」

「……へ? ――ええっ!?」

 クラッドからの指名。想定外の事態に、オルファリアは素っ頓狂な声を上げ、自分の居所も彼に知らせてしまう。袖無しのコートを翻し、クラッドがオルファリアの許へ歩み来る。威風堂々とした彼に、ディアスもロレンスもピリポも、ネルソンたちもアルピナもオルファリアの前を譲ってしまった。

 直立した自分よりも四〇cmは背が高い男性から見下ろされ、腰掛けたままのオルファリアは緊張に唾を飲み込む。

「オマエがそうか? 木の葉を模った聖印ホーリーシンボル……献身教ナートリズム、か。――ん? へぇ……結構カワイイ顔してんじゃねぇかよ」

 腰を曲げ、オルファリアの顔を至近距離から覗き込んだクラッドの美貌が綻んだ。そこには年齢不相応の無邪気さがあり、少々オルファリアもドキッとしてしまう。

「あ、あの……な、名前はオルファリア・アシュ――」

「――よし、オマエ、オレを手伝え。一緒に冒険に行くぞ。明日の朝、ここに集合だ。解ったな? 下手すりゃ数日掛かるから、準備はちゃんとしとけよ?」

「――は? ええ!?」

 オルファリアの自己紹介も言い終わらせず、一方的に決定するクラッド。それに、事の推移を見守っていた他の冒険者たちがどよめいた。

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