第34ターン 当事者たちの推測
頭を抱えて唸るオルファリアを横目に、ガストムはバオーやマリクと同じテーブルに就く。オルファリアだけでなく、受付カウンターに居るメイリン、ピリポ、ディアス、ロレンスとも距離があり、ティスは厨房の中。内緒話には都合の良い配置であった。しかも――
我らが主へ
偉大なる献身と慈愛の女神・ナートリエル様へ求め訴えます
御身のあられる聖域の静けさを
一時この場へお分け下さい……
「――《
「サンキュ、マリク。じゃ、始めるか。オルファリアちゃんに関する話し合いを」
バオーの言葉に、マリクもガストムも表情を真剣なものにする。
口火を切ったのはガストムだ。バオーへ硬い口調で問い掛ける。
「それで……お前が俺とマリクを呼び集めたからには、確信が持てたんだな? オルファリア・アシュターがコトネリアの娘だということに?」
「そうともさ、兄弟。話が早くて助かるよ」
「……その、『兄弟』というのはやめろ」
「そう言うなって。大体……同じ穴の兄弟ってことは事実さ」
バオーの暗示に、ガストムは言葉に詰まり、マリクはテーブルへ額をぶつける。
彼ら三人は、コトネリアと肉体関係があった男として、オルファリアが彼女の娘ではないかととっくに疑い、探っていたのだ。今日は、その最終的な結論を、バオーがマリクとガストムへ伝えようということなのである。
「……俺は、コトネリアとそういう関係になる気は本来無かった。あれは若気の至りだ」
「泥酔してうっかり、だったか? だからガストム、今でも酒は一滴すら飲まないもんなぁ。ドワーフは本来酒好きだってのに」
自分の言い訳を茶化したバオーをガストムは睨む。「まあまあ」とマリクが宥め、話は本題に戻った。バオーが自分の行った調査の結果を報告する。
「この辺境のさらに辺境の村に、コトネリアが住んでた事実が摑めたよ。小さな
ガストム、バオー、マリクの視線が、今も離れた椅子で唸るオルファリアに注がれる。
「……やはり、年齢をごまかしていたか。コトネリアも年齢がよく解らない女だったが……娘にもそれは受け継がれていたようだな」
「ま、あんなエロい身体で一二歳とは思わないよな、普通」
「……バオーさん。セクハラですよ。それで、その……コトネリアさんは?」
マリクの……何処か恐れているような質問に、バオーの顔が微かに強張った。
「コトネリアは……死んでたよ。一ヶ月と半月くらい前に、何かの病気で、らしい。……葬儀の数日後に、コトネリアの娘は住んでた村を旅立ったとさ。『カダーウィンに行く』と言ってたことを、村人の何人かが憶えてたよ……」
コトネリアの死に、三人共思うところがあったのだろう……。マリクは再びテーブルに額をぶつけ、ガストムは瞼を閉じ、バオーは杯に残っていた葡萄酒を飲み干した。
暫し沈黙が降りた後……改めて、ここでもガストムが口火を切る。
「オルファリア・アシュターがコトネリアの娘であることはまず確定……だな。だが、ならば何故彼女がカダーウィンに来たのか……だが――」
「自分の父親を捜しに、だろうな。とはいえ、俺っちたちの中の誰かである可能性は低いだろ? オルファリアちゃんの髪の色はコトネリアと全然違う。あれが父親譲りなら――」
「――いえ、オルファリアさんの髪の色は、コトネリアさん譲りだと思います」
バオーの推理をマリクが真っ向から否定した。
「一度だけですが、コトネリアさんの髪がオルファリアさんと同じ色に染まるのを見たことがあります。詳しくは教えてもらえませんでしたが……コトネリアさんの血筋は、本気になると髪が薔薇色に変わるのだと。その時の髪色を受け継いでいるのなら……」
「……オルファリアちゃんの髪色は父親と無関係ってことか? とすると、俺っちもマリクもオルファリアちゃんの父親の可能性はあるわけか。……ガストムも」
「……片親がドワーフだからといって、必ずドワーフの血が表に出るわけでもないしな……」
両親が異種族同士の場合、子供の種族は三つのパターンが考えられる。一、父親と同じ種族。二、母親と同じ種族。三、両親の種族双方の特徴を受け継いだハーフ。
オルファリアは種族が母と同じ
……しかし――
「……真面目な話だ。お前らはオルファリア・アシュターの父親は誰と考えている?」
「多分、ガストム、お前が思い浮かべてるのと同じ奴だよ」
「……そうですね。確率的に考えれば……コトネリアさんが居なくなる前の数ヶ月間、彼女と一番長い時間を共に居たのは『彼』に他なりませんし」
ガストム、バオー、マリクのオルファリアの父親に関する推測は一致していた。
「……現在、このカダーウィンで最強の冒険者……か」
ガストムが複雑そうな顔で呟く。
「〝辺境の暴君〟の異名で知られる、恐るべき
バオーが淡々と告げる。
「冒険者としての
マリクが溜息を吐くように指摘した。
――その者の名は、『クラッド・イェーガー』。
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