第33ターン そして現在――続く苦悩

「――あ! ファリ姉様、お帰りなさい!!」

 ゴブリン退治+αを終えて冒険者ギルド・カダーウィン支部へ帰還したオルファリアを発見して、給仕服姿のティスが駆け寄ってきた。彼女をオルファリアは優しく抱き止める。

「ただいま、ティスちゃん。変わりはない?」

「うん、この四日間いつも通りよ。……あれ? ファリ姉様は服が替わっているわ?」

「……色々あって駄目になっちゃったの……うぅ……」

 出発した時は貫頭衣型の法衣だったオルファリアの服装が、農村の村娘がよく着ている丈夫なブラウスとスカートに替わっていることに気付き、ティスが首を傾げる。その理由を詳しく説明したくはないオルファリアであった。

「オルファリアさん、お帰りなさい。……今回の冒険は大変だったみたいだね……」

「あ、マリクさん。……はい、今までで一番大変でした……」

 箒片手に労いをくれたマリクへ、オルファリアは頷く。彼女の背後のディアス、ロレンス、ピリポの疲れ切った様からも、困難な冒険だったことは明白であったのだろう。

 一ヶ月前の、オルファリア最初の冒険以来、彼女はマリクたちの教会に部屋を借りていた。一緒に住み始めてから、ティスはオルファリアを『ファリ姉様』と呼んで慕っている。また、借金は完済しても、教会の内情は火の車だ。マリクもティスも、冒険者ギルドの手伝いなどをして、それを補填しようと頑張っているのである。

「お帰り、オルファリアちゃん。それとティスちゃん、葡萄酒お代わり。お酌もしてよ♪」

「……一一歳のティスにお酒の相手はまだ早いですよ。お酌ならぼくがしましょう」

「男にお酌してもらっても嬉しくないって!?」

 まだ陽が高い中、併設の酒場で酒杯を傾けていたバオーの隣にマリクが腰掛けた。

「はいはい! オルファリアさん、ディアス君、ロレンス君、ピリポ君! 依頼の報告がまだだから、こちらまでお願いねっ」

「はーい、じゃ、おいらが行ってくるね」

「……ピリポだけじゃ何言い出すか解んねえし、俺も行ってくるよ」

「ピリポとディアスの組み合わせには不安しか感じない……。僕も行く。オルファリアは先に休んでいてくれ。一番疲れているだろう?」

「……じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」

 受付カウンターのメイリンに呼ばれ、ピリポ、ディアス、ロレンスはそちらに向かう。気を遣ってくれた仲間たちに礼を述べ、オルファリアは手近な椅子に腰掛けた。

 ティスがオルファリアに手を振り、酒場の厨房へと消え、代わりに受付カウンターの奥から出てきたガストムが、何か用事なのかバオーとマリクの許へ向かう。そんな光景を眺めつつ、オルファリアが考えるのは本来の目的――実父捜しのことだ。

(この一ヶ月間、進展が無かったわけじゃない。もあるし……)

 そう――。結局オルファリアの手元に残ったあの日記には、コトネリアがカダーウィンを去る直前までの、一年以上の期間に亘る男性遍歴が細かく記されていたのだ。要するに……も。

(その頃にお母さんと、に、肉体関係があった男性を片っ端から調べれば、その中にお父さんは必ず居るはず……! だ、だけど……!!)

 オルファリアは酒場の方へ視線を走らせる。そこに居るバオー、マリク、ガストム……実は、

(……ついでに、ボルドントさんも……)

 あの一件の後、調べたところ……元々ボルドントは誠実な商売を旨とし、女性関係も極めて大人しかったらしい。……体型すらマリクほどではないが瘦せていたという。そんな彼が今のように歪んだ原因は、一三年前、当時想いを寄せていたコトネリアが突然失踪し、トラウマを抱えたからなのだと。

(ボルドントさんがわたしに執着したのは、お母さんの面影を感じたからかも……?)

 それを思うと、オルファリアはボルドントを憎めないのだ。

 ただ、問題なのは……という点。コトネリアの上を行き過ぎた男たちは、日記に記された期間だけでも恐るべき数に上ったのである。

(あの膨大な数の男性を一人一人調べるなんて……どれだけ時間が掛かるのかな……?)

 想像するだけでオルファリアの心は折れてしまいそうになるのだった。

(お母さんの……馬鹿ぁああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~!!)

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