第32ターン オルファリア・スタンピード
「……うぅん……?」
舞台上に出てきたオルファリアの手が空なことにバオーは首を捻るが、緊張感を漲らせた彼女に、ひとまず舞台の中央を譲る。
オークションの客全員の視線が自分に集中するのを感じ、オルファリアは二、三度深呼吸をして息を整えると――信者へ説法をする時の要領で朗々と声を張り上げた。
「皆さん、初めましてっ。わたしはオルファリア・アシュターと言います! 本日……いえ、昨日、このカダーウィンの冒険者ギルド支部へ登録して、冒険者となりました!!」
オルファリアの唐突な自己紹介に、客席の人々は何が始まったのだと、誰もがオルファリアから目を離せなくなる。
「わたしは
……コトネリアはやはり、この街でかなり有名な冒険者だったらしい。その二つ名を並べたオルファリアの宣言に、少なくない客から興味をそそられた風な声が漏れる。
(摑みは上々……お願い、上々であって! ここからが本番……あぅぅっ……!!)
客たちの興味が薄れない内に――その一念でオルファリアは、己の修道服のスカートの中へ両手を突っ込んだ。そこに存在する『目的の物』を摘み、じわじわと……オルファリアとしては精一杯の速度で、引き下ろす……。
顔を見る見る紅潮させ、耳から湯気を上げんばかりになったオルファリアの、スカート内で起こっている何事かに、オークションの客……特に男性客たちは目を逸らせない。
やがて――オルファリアは『それ』を己の両脚から引き抜いた。全ての客席から良く見えるように、指で広げて頭上へと掲げる。
――『彼女自身のショーツ』を。……『丸一日以上穿き続けて、オルファリア自身の汗やら何やら色々なモノが染み付いているはずの使用済みの下着』を。
「……この! わたしのパンツが出品物です!! 将来、この街で名を馳せる冒険者の下着……絶対、プレミアが付きますよっ! 保証しますっっ!!」
オークション会場が、色々な意味での驚愕に鳴動した。
(――ああああっ!? わたし、またやらかしちゃったぁああああああ~~~~~~~~!!)
……闇ギルドでこのオークションのことをバオーから聞き出した時と同じである。臨界点を突破したオルファリアの脳は、斜め上にぶっ飛んだ案を肉体に実行させていた。
オルファリアが横目で舞台袖を見ると、ティスが物凄い表情で固まっている。オルファリアは今さら大暴れする羞恥心に耐えるしかない……。
(ぃやぁああああっ!? 逃げたいっ、消えたい! 跡形も無くなってしまいたいっ!!)
暴発する感情は、そうして――オルファリアの潜在能力を引き出した。
――《
「……ふむ。その心意気や良し! 君の下着、私が買った!!」
一人の紳士が手を上げる。それが、引鉄となった――
「一〇〇〇上乗せする。彼女の下着……買うのは私だ!」
「は、まだるっこしい! 一〇倍! ゼロを一つ追加しろ!!」
「……正気か? あんな布切れ一枚にそこまでの価値があるとでも? ――あると思います! 五万上乗せ、あの娘のパンツは俺のモンだぁああああああああっっ!!」
「くそ、本命はこの後出品される予定のあれだったんだが……ええぃ、買わずに後悔するより買って後悔するのが我が生き様! 一〇万上乗せ!! これで総額は――」
「吾輩はここで全財産を引き換えにしても後悔しない! ゼロをさらに一つ追加だ!!」
「……………………ぅえっ!?」
――オルファリアが我を取り戻した時には、苺を思わせる芳香が漂うオークション会場には途方もない数字が氾濫していた。……それが、自分の掌中の小さな白い布へと付けられていく価値だと、オルファリアはとても信じられない。
サキュバスのフェロモンに浸されたオークション会場の熱気はさらなる増大を続けており、オルファリアのショーツの値段は今なお吊り上がり続けている……。
(わたし……本当に自分の使用済みのパンツを売りに出しちゃった……。申し訳ありません、ナートリエル様っ。でも、お母さんも悪いと思うんです! だけど、わたしの下着にここまでの価値があるなんて、少しだけ誇らしい……って、何考えてるのわたしっ!?)
羞恥心、罪悪感、そして微かな満足感……色々な感情が胸中に渦を巻いて、オルファリアの表情は逆に虚ろなものとなっていた。
「す、凄い……! ちょ、凄いよ、オルファリアさん!!」
舞台上に飛び出してきたティスが、興奮した様子でオルファリアの肩を摑み、揺らす。
……片隅では、バオーが蹲って腹を抱えていた……。
オルファリアのショーツの落札金額は、ボルドントへの借金を完済して余りあった。
実はボルドントは、オルファリアが目標金額を用意してきてもさらに要求金額を上乗せする策を準備していたのだが……それを使っても、オルファリアのショーツの落札額の方が上であったのである。
結局、オルファリアも教会の土地も手に入れ損なったボルドントの表情は、オルファリアをして頭の血管が切れるのではないかと心配になるほどのものであった。
そして、時間はそれから一ヶ月後の現在に戻る――
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