第31ターン 出品するか、どうするか?
「……その日記を書いた名物冒険者の人、オルファリアさんの知っている人なの!?」
「う、うん……色々とお世話になった人、なの……」
流石に「実母です」とは言い出せず、オルファリアはティスの質問へそう濁した。
何にせよ、オークションの開始は刻一刻と迫る。二人はコトネリアの日記を手に、会場たる西の催し場に向かった。……ちなみに、『西の催し場』とは暗号であり、実際にオークションが行われる場所は闇ギルドの西にあるわけではなく、カダーウィンの西部地区でもない。
具体的な住所は機密のその場所は劇場に似ていた。無数の客席が舞台から放射状に配置され、後方の席ほど階段状に高くなる。客全員の視線は最前の舞台へと注がれる仕様だ。
入口でバオーの血判状を見せたオルファリアとティスは、客席ではなく舞台袖に案内される。そこにはオルファリアたちと同じ、オークションへの出品者らしき者たちが控えていた。……表社会のオークションなら、出品物はオークションの運営者側が管理するが、これは闇ギルド主催の裏のオークション。運営者側に任せては偽物にすり替えられる可能性があると考えてか、落札者の手に渡るまで自分たちで管理する者も多いらしい。
……オルファリアたちは駆け込み参加の為、自分たちで管理せざるを得ないだけだが。
オルファリアが母の日記を強く胸に抱いた時――オークション開始のベルが鳴る。
「レディィィィス・エェン・ジェントルメェンッッ!! 長らくお待たせしちゃってごめんよ。今夜のオークション、いよいよ開幕だ。皆、楽しんでいってくれよな?」
舞台上に現れた燕尾服姿のバオーが、茶目っ気たっぷりに挨拶した。それを皮切りに、一風変わった品々がオークションを彩っていく……。
「これは〝辺境の暴君〟クラッド・イェーガーが、駆け出し時代に使っていた杖だ! 強力な魔法の杖と騙されて買った物で、本当は何の力も無い木の棒なんだけどな。クラッドは事実に気付くまで半年も掛かったそうだぜ!!」
「……これはぁ、今はこの街の冒険者ギルドの支部長になってるガストムさんがぁ、現役時代に使ってたブーツよぉ。遥か北の山脈での氷竜退治の時にも履いてた物でぇ……見てぇ、ここの赤黒い染み。氷竜の顎を蹴り砕いた時、その血が付着したのよぉ」
「……冒険者ギルドが大きい街だけあって、冒険者縁の品が人気みたい……」
袖から舞台上を覗き、オルファリアは呟く。〝辺境の暴君〟なる人物の杖も、あのガストムのブーツも、ボロボロにもかかわらず、オルファリアが見たことも無いような値で落札されていった。そこを鑑みれば、コトネリアの日記も期待が出来るのだが……。
(……ほ、本当に出品していいのかな……!?)
オルファリアは未だ踏ん切りが付かなかった。
(身内の恥と言っていいこんな品……! 可能なら今すぐ燃やしたいよぅ……)
しかし、それをやると今日中に目標金額を稼ぐことは、きっと出来なくなる……。
オルファリアの苦悩が解消されぬまま、とうとうその瞬間は訪れた――
「――さて、次の品は駆け込みで出品されることになった物で、実は俺っちも詳しくは聞いてないんだ。果たしてどんな品が飛び出すか……刮目だ!!」
バオーが客席を煽り、オルファリアたちの出番を告げる。
「オルファリアさん、お願い……!!」
ティスがオルファリアの肘を震える手で摑み、祈るように言った。
(お母さんの日記を売らないとわたしがボルドントさんと結婚わたしが逃げたらティスちゃんとマリクさんが大変なことにだから絶対お金は必要でだけどこんなお母さんの恥部を他の人に晒すなんてああナートリエル様わたしどうすれば早く思い付かないと何とかどうにかあれならそれならこれならああぁぅぅうううううううううううう~~~~~~~~~~~~~~!?)
オルファリアの思考速度が光の速さを超越して加速していき――
「…………。ティスちゃん、ちょっとこれ、お願い……」
「――へ!? え? だってこれ……オルファリアさんっっ!?」
……オルファリアは、コトネリアの日記をティスに押し付け、舞台上へ出ていった――
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