第28ターン 繫がった希望

「ああ、そうだったね。ただ、申し訳無いんだけど――。残念ながらね」

「………………えっ……!?」

 バオーからの絶望的な情報に、オルファリアの膝から力が抜ける。

「オ、オルファリアさん!? ねえ、ここまでやらせてそれは酷いんじゃないの!?」

 オルファリアを支えたティスが、相手が闇ギルドの幹部と忘れた様相でバオーへ噛み付く。が、彼はティスの不敬を気にした様子も無く、むしろ気に入った風に笑い返した。

「慌てなさんな。仕事は無い、だけど

「……え? ど、どういうことですかっ?」

 失われ掛けた瞳の中の光を甦らせ、オルファリアはバオーへ問い返す。

「今夜、日付が変わる頃から、闇ギルド主催のオークションが開かれるのさ」

「闇ギルド主催……ということは――盗品、とかですか……?」

「そういうものもあるかもしれない。ただ、今夜のオークションは違うね。語弊を恐れないで言えば――だよ」

「「……は?」」

 バオーの説明に、オルファリアもティスも目を丸くする。

「正確に言えば、大多数の人にはゴミやガラクタ同然の品が扱われるオークションさ。例えば折れた剣、或いは割れた壺。だけど……その折れた剣が、名高き勇者の剣の成れの果てなら? 割れた壺も、有名な陶芸家が満足いかずに叩き割った自作品だったら? 一見ゴミでも、値を付ける好事家は居るんだよ」

「それは……解る気がします」

 オルファリアも首を縦に振る。しかし、そうは言ってもゴミはゴミ。表社会で正当な価値を付けることは難しいだろう。だからこそ、裏社会で闇ギルドが管轄しているのだ。

「でも……そのオークションがわたしたちのどんな手立てになるんですか……?」

「カダーウィンには、一〇年以上前に一人の名物冒険者が居たんだ。数多の武勇伝を持ち、今でもこの街……いや、辺境全域で人気が高い。その人物は献身教ナートリズム僧侶クレリックでね。ティスちゃんが住む……今はマリク・ジャスミンが任されてる教会に、当時部屋を借りてたんだよ。あの教会には、その冒険者縁の品がまだ残ってるかもしれない……」

 そこまでバオーに言われれば、オルファリアたちも彼が言う手立てに理解が及んだ。

「あの、わたしたちがその冒険者に関わる品を見付けたら、今夜のオークションに――」

「充分な代価は貰ったからね。オルファリアちゃんたちの参加、認めよう」

 バオーは手品のようにインクの付いた羽根ペンを取り出し、続けて取り出した羊皮紙へ文章をしたためていく。最後に左手の親指をナイフで小さく裂き、血と指紋を羊皮紙に付着させた。それをオルファリアへ渡す。

「これを入口で見せれば、今夜のオークションに出品出来るように手配しておくよ。会場は西の催し場、ティスちゃんなら解るよな? それじゃ、頑張って☆」

「あ、ありがとうございますっ。ティスちゃん、急ごう!」

「うん、オルファリアさん!!」

 希望が繫がったことに顔を綻ばせ、献身教ナートリズムの少女たちは闇ギルドから駆け出していく。その背中を見送り、バオーは口の中で呟いた。

「オルファリア・ちゃんか……。さて、本当にの関係者か否か、見定めさせてもらうよ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る