第20ターン 登録、そして初めての――

 紆余曲折を経て――

「――オルファリア・アシュターさん。冒険者ギルドへの登録、完了よ」

「はい、ありがとうございました」

 左手の甲をさすり、オルファリアはメイリンへ頭を下げる。

「その、手の甲に押された刻印が、冒険者としての身分証になるから。普段は見えないけど、本人が意識すれば浮かび上がってくるわ。ギルドが所持する特別な照明を当てても見れるようになるけど……まあ、それは特殊な状況ね」

「はあ……」

 メイリンの説明に生返事をしつつ、オルファリアは左手の甲へ意識を集中してみた。途端、そこに【Ⅰ】という数字を意匠化した紋様が現れる。

「その数字は『冒険者としての等級レベル』を表してるの。それが高いほど優秀な冒険者ってこと。信用や特権も増えていくわ。受けた依頼を成功させていけば等級レベルも上がるから」

(【Ⅰ】は駆け出し、最下級の冒険者ってことなんだ。これを上げていけば、お父さんの情報も手に入れ易くなるかな……?)

 これからの算段を考えるオルファリアへ、メイリンがさらなる声を掛ける。

「その気になれば今日から依頼を受けることも出来るけど、どうする?」

「……実はお財布の中身が心許無くて。すぐにお仕事が出来るなら、したいです」

 元々、コトネリアと母子二人で慎ましく暮らしていたオルファリアだ。貯えが存分にあったわけではなく、それもコトネリアの葬儀やカダーウィンまでの旅費で大分使っていた。早期に稼げるに越したことはないのである……が。

「……オルファリアさん、武器や防具はあるの? 流石に武装も整ってない人に、魔物モンスター退治は斡旋出来ないから。……中には素手で巨人に殴り勝つような冒険者も居るには居るけど……」

「……残念ながら、そこまでの域には達してません……」

 メイリンの確認に、オルファリアは二重の意味で首を横に振る。

(一応、献身教ナートリズム僧侶クレリックとして、お母さんから戦いの手解きは受けたけど……)

 オルファリアがその時に使っていたのは練習用の模擬武器。実戦では使えない為、故郷へと置いてきていた。コトネリアの冒険者時代の持ち物と思しき武装も教会には遺されていたが、オルファリアでは持ち上げることも出来なかったのである。流石は改心しても悪魔デーモンと言うべきか、コトネリアは外見によらず怪力であったらしい……。

(どのみち、それも使えないから村に置いてきたし……)

 結果、オルファリアは現在まともな武装が無い。

「……もしかして、わたし、受けられるお仕事がありませんか……?」

「そんなことないわ。例えば……これとか」

 不安を顔に浮かべるオルファリアへメイリンが提示したのは、何通かの封書だ。

「この街の外から来た、この街に住む誰かへの手紙。ここからその誰かへ配達するの。手紙の配達も冒険者の仕事なのよ。こういう街の外には出ない、街中で完結する依頼なら比較的安全だから、こういうものをこなして武装を整えるお金を貯めるといいわ」

 メイリンの助言に、オルファリアは目から鱗を落として頷く。

「そういうお仕事もあるんですねっ。解りました。わたし、その依頼、受けます!」

 ――こうして、オルファリアの初仕事となる街中での冒険シティ・アドベンチャーが始まったのだった……。

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