第19ターン 冒険者ギルドのエルフな受付嬢
冒険者ギルド・カダーウィン支部は、オルファリアの故郷の村のどの家よりも大きい建物であったが……中は案外閑散としていた。
一階のほとんどを占める広間の、奥に位置する受付カウンターにも、そこまでに並ぶ無数の長椅子にも、人影はほぼ見られない。黒い肌の、ハーフエルフと思しき青年が職員らしき男性の説明を受けながら、何かの用紙に記入している程度だ。
壁際の掲示板には、冒険者への仕事の依頼だろうか? 幾枚かの羊皮紙が貼り出されており、それを小柄な茶髪の少年が見ているが……目ぼしいものが無いのか首を捻っている。
併設の酒場では、オルファリアの胸ほどの背丈の男の子がテーブルに突っ伏していた。
「そ、想像してたのと違う。筋骨隆々な人たちが詰め掛けて、大騒ぎしてると思ってた……」
「――あー、朝や夕方以降はそんな感じよ。今みたいな昼過ぎは、ほとんどの冒険者は依頼を受けて出払ってるからね」
オルファリアの独り言に、ハキハキとした声が真相を述べる。オルファリアが接近を試みた受付カウンターに、一人の女性が就いていた。身長はコトネリアより僅かだけ高い。緑の瞳が宝石のような、線の細い美人である。年頃は一〇代の中盤から後半くらいに見えるが……その見た目は当てにならないはずだ。腰まで達する金糸の如きストレートヘアから、先刻見掛けたハーフエルフの青年よりもずっと長く鋭い耳が覗いていたのだから。
(この人、エルフだ……)
「ようこそ、冒険者ギルドはカダーウィン支部へ。あたしはメイリン。この支部で受付業務を担当してるわ。あなたは……冒険者への登録希望者かしら?」
「は……はいっ。よろしくお願いします」
「それじゃあ、この用紙に必要事項を記入して――もらうところなんだけど、本来は」
メイリンと名乗ったエルフは、カウンターの裏から羊皮紙とインク壺、羽根ペンを取り出し――しかし、それをオルファリアへは渡さずに、彼女の顔を凝視した。
「……あなた、本当に一四歳より上なの? もっと年下に見えるんだけど……?」
(……うぅっ)
眼光鋭くしたメイリンに、オルファリアは内心で呻く。冒険者には特別な資格は必要無いが……唯一、男女共に一四歳以上という年齢規定がある。即ち、一二歳であるオルファリアは、本当なら冒険者になることは許されない……。
「……ど、童顔で背が低いのは自覚がありますけど、これでもきちんと一四歳です。誕生日を迎えて、まだ一ヶ月も経ってませんが……」
背中に冷や汗を流しつつ、オルファリアは胸を張った。父を捜す為に冒険者になると決めた時、年齢も二歳上にさばを読むと決めたのである。事前に
(……と、とはいえ、本当にごまかせるかな……?)
胸をドキドキさせながらメイリンの次の言葉を待つオルファリアは、そのメイリンがじっとある一点を見詰めていることに気付く。……オルファリアの心臓の真上。
(ま、まさか――この心臓の音が聞こえてるの!? あの長い耳は飾りじゃない!?)
「……お、おっきい……!!」
「…………へ?」
緊張に胸が張り裂けそうになっていたオルファリアは、メイリンの驚愕の声音に思わず間の抜けた声を返した。
オルファリアの窮屈そうな修道服の胸元へ、メイリンが詰め寄る。
「……い、一体……何cm!?」
「あ、あのっ、それ、冒険者登録に関係ありますか!?」
「ある……凄くあるから! 正直に答えて!!」
「ええと……その……は、八四……です……」
「ぐふっ、は、はちじゅうよ……!? カ、カップは!? いくつ!?」
「………………エ……F…………です……けど……」
赤面するオルファリアの回答に、メイリンはカウンターへ暫し轟沈した。
「……………………うん、了解っ。ごめんね、一応規定だから。あなたが一四歳以上なのは、きちんと確認が取れたから!」
「……は、はあ……」
目尻の涙を拭いて殊更明るく振る舞うメイリンに、オルファリアは彼女のメイド風の服――冒険者ギルドの女子職員の制服の胸元が絶壁なのは見なかったことにした……。
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