第12ターン そうは問屋が卸さない

誘惑光線セクシービーム》――サキュバスの独自魔法。自らのフェロモンを集束・圧縮し、光線の如くして発射する。《お色気ムンムンラヴ・フェロモン》よりも強烈な魅了効果を持ち、同時に決して低くはない攻撃力も有していた。

「……んっ――ふぁっ……!! ……はあっ……はっ……はぁっ……!」

誘惑光線セクシービーム》着弾の余波で舞い上がる砂煙を前に、オルファリアは尻餅をついた。全身の肌は薄紅に色付き、汗が幾筋もの銀の線を走らせる。立てた両膝の間から覗くショーツは、吸った汗のせいで薄っすらと透けてさえいた。

「はぁ……あぅ……はぁんっ……。や……やっぱり《誘惑光線これ》……やぁぁ……っ」

 オルファリアの潤んだ鳶色の瞳が、自らの胸部を見下ろす。そこにそびえる山々の天辺が、充血して腫れ上がっていた。オルファリア自身の息が掛かっただけで甘い痺れを走らせる。

 ……《誘惑光線セクシービーム》は、発射時にサキュバスの側にも少なからず負担を掛けるのだ。その感覚は、と言われているが――

「……本当にそうなのかは、わたしも知らないけど……うぅ……」

 ともかく、《誘惑光線セクシービーム》発射直後のオルファリアは、発射箇所が敏感極まりなくなってしまう。その上、そこを隠すことも億劫なほど疲弊してしまうのだ。……そうして放たれる《誘惑光線セクシービーム》は、彼女に魅了されていたゴブリンゾンビたちにはまさにご褒美だったかもしれない……。

「……い、今、魔物モンスターに襲われたら為す術も無い、けど……マンティコアも倒したし、ゴブリンたちももう居ないから、大丈夫だよね……? でも、早く皆を治療しないと――」

 オルファリアが脱力した身体に鞭を入れ、冒険仲間たちの所へ向かおうとした、時――

「……ふがぁぁぁぁああああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~!!」

 ――大音声が洞窟の壁を震動させた。同時に砂煙から飛び出したのは、赤獅子の体躯……。

「……マンティコア!? そんな、まだ生きて…………えっ?」

 血の気を引かせたオルファリアだったが――即、異様な雰囲気を察した。マンティコアの首から上は、禿頭の一番上まで上気している。双眸は粘り付くような輝きに燃え、オルファリアの肢体を爪先から頭頂部まで舐めるように睨め回してきた。

 ……繰り返す。《誘惑光線セクシービーム》――サキュバスの独自魔法で、決して低くない攻撃力を有する。ただし、《

「……《誘惑光線セクシービーム》の威力には耐えた、けど……魅了効果への抵抗には失敗……した……?」

 ……否。マンティコアは《誘惑光線セクシービーム》の魅了効果への抵抗に失敗したのではない……。

 ――失敗したのだ。

 先までの……冒険中は常に頭の片隅で覚え続けていた生命への危機感とは違う――の予感がオルファリアの背筋を這い上がった。

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