……リア友の蒼子が、またSNSに新しい動画をアップしていた。

 ベッドの上で寝ころんだまま、それを再生する。気は進まないけれど。


 狭い四角の中に写っているのは、夜の町、屋根と空だ。

 右側から、走ってくる人物が入ってくる。それは、まるで忍者のような黒い衣装と黒い布で顔を隠した男性だった。


 男性が屋根の上を走るのを、スマホのカメラが必死に追う。

 そして、その男性が隣の屋根へと跳び移ると、今度はカメラの追えないその屋根の向こうへとジャンプして、見えなくなり、動画が終わった。


 私は、深く深くため息をつく。一分にも満たない動画を見ただけで、すごく疲れている。

 それから、この動画に付随している、「また忍者を見つけた」というメッセージを眺めた。


 蒼子は、ある時から突然、二か月に一回くらいのペースでこのような忍者の映像をSNSに投降するようになった。

 最初の頃は驚かれて、色々と拡散されていたけれど、最近はすっかり飽きられて、私のような蒼子のフォロワーしか見ていない。


 どう見ても、蒼子とこの「忍者」は組んでいる。

 蒼子は、SNSでの質問でも、私の対面式の追求でも、あくまで「この動画は偶然撮れたものだ」という主張を押し通しているが、示し合わせていないとああいうアングルが不可能なことくらい、素人でも分かる。


 こんなことをしだす前の蒼子は、「バズるためなら、どんなことでもやってみたい」とかなんとか言っていたけれど、「ここまでして注目されたいの?」と問い詰めてみたい。

 彼女に付き合わされているこの男の人も可哀そうだ。


 その時、庭の方でトオルが激しく吠え出した。

 私は上半身を起こして、ベッド側の窓を開けて、庭のトオルを見下ろす。


「うるさいよー」


 一言注意すると、空に向かって吠えていたトオルは、「クーン」と耳をぺたんこにしたまま、犬小屋に戻っていった。

 あんまり無駄吠えしない子だけど、たまにあんな風に吠えることがある。人間には聞こえないくらい遠い所で、サイレンでもなっているのだろうかと、夜の空を眺めながら思った。






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