【終幕】あれは春という鮮やかな
◇
案の定、俺らのクラスの一限は自習らしく、ホームルームが終わるさっそく教室内が騒がしくなった。
が、一つ前とは違う点がある。
「どうしたんだ、皆して」
ぞろぞろとクラスの数名が教室を抜け出す。他のクラスにもチラホラそう奴らが見えた。ふむ、もしかしてこれ、皆俺らと同じ考えなのでは。
俺はなんだなんだとキョロキョロしてるなっちゃんの手を早速引ったくり、廊下を出た。
「ま、またとーやくんったら! 今度はなに!」
「急げ急げ、合同教室に有名人が来るぜ」
「はあ!? なに、言ってんの、有名人って!」
階段を駆け上がって、俺らは走って合同教室1号へ入る。予想通り、教室は満員御礼状態。立ち見までいて、物々しい雰囲気だ。
尽かさず、あきの姿を探す。と、丁度前の方眠そうな双眸が俺らに手招きをした。
席は二つ空いてる。
あきが取っておいてくれたんだ。
「二人とも早く早く」
「え、ねえ、これってさ」
「いいから座ろうぜ」
そそくさと席に腰掛けると、始業のチャイムが鳴り、ちょっと遅れて不摂生な見た目をした生物系の教師、日暮先生が現れる。独特の間で喋りつつ、スライドにQRコードを映す。
「にしても、今日はすんごく、人、多いねえ。やっぱ皆お目当てはあの人かな? ははは、授業抜け出してまで来てる人いたら、ちゃんと担任に報告するんだよー」
そして授業タブレットに映し出されたのは、この前と同じく睡眠時の夢について。ほぼ同じな内容なのに、なんだかとても懐かしい気がした。
「では、お呼びするよー。青ヶきはる先生です。拍手」
そして迎えられたのは疎らな拍手ではなく、大勢の拍手。大きな装置をスタッフらしき人に持たせて、奥部屋から小柄な少女が現れる。
「うお、マジで小学生だ」「やべえ、ガチで本物」「うわぁ、小さくて可愛いー」「初めて見たけど、すげえ」「おい、早く生放送開始ボタン押せ。はやくさ!」「あん」「誰だ喘いだの」
一斉に騒ぎ出す教室内。そこにはもはや、純粋に講義を聞きに来たものは少ない。大方、彼女が目当てなのだ。
彼女――ハルちゃんが。
そう。あのボタンを押さなかった事によって、変わったのだ。
現実が……"時を超えない少女"はその成果を世間に示したんだ。
俺らだけではなく、世間からも忘れられる事もなくて、そのまま彼女の技術が認められたのだ。
颯爽と壇上に立ったハルちゃん。ふう、と息を吸って、周りを見渡す。少なからず緊張してんだろうか。小さくお辞儀をしてから、第一声が発せられた。
「あ、へろう。あきちゃん、なっちゃんに、マイだーりん」
俺らを見て。
バカ。マイクを通ってるからな、今の。
再び騒めく生徒達。特に俺らの周り。なんだあいつら知り合いか。どういう事なんだ。だーりんとは一体。など。
反応に困っているところ、ふと、ちょんちょんと後ろから腕に触られたのでその方向を見る。同じクラスの俺と席が近い吹奏楽部の女子だった。彼女もまたここに駆けつけたのだろう。
「ね、ねえ。白元くん。今"だーりん"って」
あーせなる。
「ち、違う違う。あのクソ小学生が適当に言ってんだよ」
「えー、でも、何か仲良い感じだったし」
「だーかーら、あいつはただの――」
そこまで言って、俺は考えた。
友達、というはちょっと軽いし、知り合いは遠い。じゃあ"親友"と言うかと言われると、正しいのだけれど俺らの関係を表すのにしっくりこない。竹馬の親友? いや、それだと固すぎるし、うーん、ここは"適わない"かもしれないが。
「幼馴染みだよ」
【了】
幼馴染は”かなわない”~あれは春という鮮やかな~ 西園寺絹餅 @taneyuuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます