【終幕】あれは春という鮮やかな
◇
「まったく適ってませんよ。バカなんですか、だーりんは」
風が吹いて、あの甘ったるい声が鼓膜を鳴らした。
まだ終わってなかったのか……って、"だーりん"って?
「映画の見過ぎ、もしくは勘違いやろーの行動ですからね。普通、そういうのは、好きな人にするもんですから」
「……え、なんで」
「はぁ。へろう、そこのマセガキ。小六の分際で何をしてくれたんですか」
青ヶきはるが――ハルちゃんが居た。
車椅子も無く、白衣を着て、どこかの屋上で、夕暮れの中に、佇んでいた。
戻った、のか?
「こ、ここは?」
「"夕焼けの街"。時たま迷い込む人達が居る不思議な街――とされています。埼玉のトワイライトタウンってのは、これが元ネタですね」
「……何がなんだかさっぱりなんだが」
「まあ、そういう不思議な場所なんですよ」
俺が吹き荒ぶ旋風に目を瞑っていると、ずいとハルちゃんが寄ってきて、ある一枚の紙を見せてきた。
受け取る。
「本来、あの時のわたしは、この絵を見て思い留まる予定だったんです。けど、その絵は誰かさんがしっかり掴んでなかったので飛ばしてしまい、それが出来なかったんですよ」
「は? 本来?」
「でも、結果的に何とかなったので良かったですけど。しかしあれは邪道ですって」
そして俺はその紙に描かれた絵を見て理解する。あきが描いた五人の子供達の絵。俺と、あきと、なっちゃんと、ハルちゃんと、ベガくんの絵。特徴をしっかり捉え、各人誰だか一目で分かるその絵が、示すモノ。
「まさか、俺だけじゃなくて、あきも戻ってたのか」
俺は目の前の小学生の見た目をした女に言う。
「ええ。言ったでしょ、助手だって」
一人納得する……どうりで、やたらと絵が上手かったり、用語の説明が出来たんだな。
ちょくちょくあった違和感は、ここだったのか。
じゃあ、このハルちゃんも、本当に、ハルちゃんなのか。
「……ちなみに当の本人は?」
「美容院行ってるそうです」
「あのやろう!」
マイペースな女である。
「とにもかくにも、これで"実験"は終わりです。それに関しては感謝してますよ。ありがとうございました。結果は現実に反映されるので、しばしお待ちを。では、あでゅります」
「おい待て。なんだ"実験"って、そもそもまだ何も分かって――」
文句を言ってやろうとした途端、衝撃とともに体がふわっと浮かんだ。意識が飛んでいく感じに近い。が、今度はしっかりと見えていて、音も聞こえていた。瞬間、またも風。吹き飛ばされたあきの描いた絵はどこかに飛ばされて、俺はそれをただ眺めるだけでうおおおお!
「ではでは、今度はちゃんと好きな人と、"初めて"をどうぞー!」
バカでかい声で手を振る青ヶきはるの姿を、俺は何とも理解しがたい位置から見ていた。
下から――夕焼けがかった彼女の姿を、離れながら。
まあ要するに、俺は屋上から。
突き落とされたのだ。
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