【第二幕】 太陽が目指した遥か


 夕焼けに染まる帷子川を窓から街路樹に目を向けると、まるで枯れてしまったかような桜の木々が見える。

 全く、どうなってんだか。

「ご飯、食べてく?」

 部屋着に着替えたあきが俺の背中を突く。手には安いカップ麺がある。

「マジで親不在なんだな」

「今日は名古屋なんだって。日付変わるくらいには帰ってくるよ」

「ふうん」

 あきの親については、両方とも同じ職場で働いているのは知っていたが、まだ変わらずその家庭環境らしい。在宅ワーカーってのは初耳だが、まあ働き方も変わってきたって事だろう。

「あきさん。"お風呂にする? ご飯にする? それとも……"ってヤツやって」

「なっちゃんとやれよ」

 冷たい女である。

「んじゃ、まあ、俺帰るよ。なんかもう疲れたし、さすがに女の子の家で遅くまでいるのアレだし」

「ばいばい」

「あっさりだな」

「うちらなんて、こんなもんでしょ」

 自分から呼んだくせにずいぶんな扱いかもだが、俺とこいつの間柄にやはり恋愛的なあれこれは無い。というか、そういう事にしている。だからきっと、これはあきの発言に従ったの方がお互いに身の為だろう。

 いいんだ、これで。

 特に別れの挨拶もなく手を振られ、俺はやおら荷物を手に持って部屋を出た。昔から変わらない関係。こんなもんなのだ、俺らなんて。若干の寂しさを階段に置いて、俺は一階に降り、そのままスリッパを脱いだ。

「あのさ」

 外履きを履いたところ、上の階から体を乗り出してカップ麺を持ったままあきが俺を見ていた。

「明日も行く気?」

「一応な」

「そ」

 と、カップ麺を頭上付近に落とされる。体勢を崩しらながらもキャッチすると「ヒュー」とやる気のない口笛が鳴った。下手くそだなあいつ。

「なにこれ」

「おみあげ」

 部屋に戻っていたのだろう遠くになっていく声を聞きながら、奔放な方の幼馴染みに無言で別れを告げる。

 外に出る。ひゅるりと吹いた風は黄昏空の雲を緩く動かしていた。

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