【第一幕】 大きくなれなかったダイヤモンド
◇
親友を心友と書く人がいます。
それは、自分にとって"親しい友"ではなく、"心の友"だと言える間柄であるという事のようです
親と心。どちらも正しいように思われますが、何故か心友と書く人は、親友と書く人をどこか否定します。「いいかい、親友というのは心からの友だ。つまり親友という文字は間違い。親しいというだけでは足りないんだからね」そうでしょうか。あなたがその人を勝手に"心の友"と言ってるだけで、他人から見ればそれは"親しい"だけなのではないでしょうか。"心の友"はさすがに、自分視点過ぎると、わたしは思うのです。「理屈っぽいなぁ、キミは。だから彼氏が出来ないんだ」余計なお世話です。
わたしが小学生の頃です。肺のパンクと呼ばれる自然気胸で入院した先、同じ病室に居たのが彼でした。同い年の線の柔らかい雰囲気の男の子で、名前はベガくん(本当は"別賀くん")と言いました。彼もまたある病を患い、そこに入院していました。わたしより、ずっと長くです。期間は厳密には知りませんが、わたしより"先輩"である事は確かです。わたしはすぐに彼と仲良くなりました。お互い小学生で、人見知りする性格ではありませんでしたので……というのは少し嘘で、実際は、同じ境遇であるために、言うなれば意気投合をしたのです。
その境遇というのは――
体が成長しない事。
世の中では、ハイランダー症候群(医学的には存在しないらしい)と呼ばれる事もあるそれは、成長障害の一種のようで、ある年から体が成長せず、早くして死んでしまう疾患らしいです。らしい、というのも、実際原因がハッキリしないからで、事実わたしも、気胸の方が落ち着いてからこの疾患と同様の症状が起こりましたが、未だ医学的な原因は証明できないままなのが歯痒いながらも現状でした。
さて、かような奇病とともに生活もともにすれば、相手が同い年の男女同士、時間経過とともに友の情以上のものが発生するのも不思議ではありません。出会って二週間、早速わたしの心は彼に侵されていました。とかく簡単な事ですが、学校ではないこの非日常に放り込まれ、不安しかない心をあの柔らかい笑みで癒してくれるのですから、わたしのような純情さんであれば恋に落ちるのはもはや自明の理。分かりきった事でした。
――恋をしたのです。
――そんな事は、全くはじめてでした。
……しかし、現実というのは情がないやつでして、出会って一年、わたしの成就なき初恋は実に呆気なく、彼の死により悲しむ間も無く絶望へと変わりました。
辛いものでした。
彼に、お前は一応"心友"だと言われていた時間の方が何倍も幸せでした。
だって生きてたんですから。
だって、もう、死んでしまったんですから。
もう、会えないのです。
もう、居ないんです。
もう、わたしを呼ぶあの声も、バカにしたようないじわるな言葉も、何も、ぜんぶ、ぜんぶ、本当に、全て、消えて、無くなってしまったんです。
わたしを恋に落としてくれた笑顔は、もう、ありません。
突然のさよならでした。
――それは、彼とわたしが、小学生四年生の、ある春の日の事でした。
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