【第一幕】 大きくなれなかったダイヤモンド
――何してんだろ俺
ノイズの中、声が聞こえた。俺の声だった。幼少期の、まだ声変わりしてない俺の声。
そこには、パチパチと火花が弾けるような音とともに女の子の声も薄らとある。
そうだ。これって。
「お、来ました来ました。皆さん! プロジェクターに注目ですよ!」
頭の上で機械の処理する音がうるさく鳴るのを感じながら、映し出されるそれを見る。
これ、あの祭りの日の。
――本当だよー。何してんだっ
――あー綺麗綺麗
――誤魔化したー
――綺麗だなー
――あは、ありがとありがと
――なっちゃんじゃなくて、花火ね
――知ってたし。でも、言われたいよねー
――何をさ
――あははっ。やーい、にぶちんくーん
サッカークラブやってた時の先輩で、なっちゃんのお兄さんである、ゆうきさんに言われて、当時仲良かったなっちゃんと地元の神社行った時の、夢。
それで二人きりになった時に、俺はなっちゃんに……。
ああ。改めて見るとこんな光景だったのか。まだまだ映画並みではないとか言ってたけど、そんな事ない。ハッキリと映像として見れる。すごい。
そして、こみ上げる少しの寂寥感と懐かしい感情。
花火に照らされる昔のなっちゃんの浴衣姿。
うわ、やっぱ可愛いな。あいつ。
――ねー
――うん?
――えーと、
――うん
――とーやくん、あの
当然、教室内も騒めき出す。前のめりになって、皆、釘付けになっている
――知ってると、思うけど……その、私さ、とーやくんの事
……ん? あれ? ちょっと待ってくれ。
――なんだよ
――その……前から、ずっと、
なんかやたら長いんだが。
――俺の事が?
――前から
――前から?
――す
――す?
――す、す、す……
――……なんだよなっちゃん
――……はは。あーあ。言えないや、やっぱ。
ちょっ、待って。
これまずいのでは。
――えー
――だって、恥ずかしくてもうさ
――あ、じゃあ……その、俺が代わりに言ってやろうか?
――……え?
――あのさ、なっちゃん。実は俺もさ、なっちゃんの事
「あーーーーー!!!!!」
おい待て、なんでこんなに長えんだよおかしいだろ! あー思い出しちまうじゃねぇか……いや確かに夢で見たし、見るくらいに印象に残ってるけどさ! ダメだろこれここで垂れ流しちゃ! あーむず痒いむず痒い!! やめろマジで!
大ダメージを受ける俺。そうだよ、俺あの時、ゆうきさんのせいで告り返してやろうみたいなテンションになってたんだよ。なっちゃんならいけるだろうみたいなノリで。本人そこにいるけど、うん、ごめんそんな浅はかな俺で。小学生ってそんなもんなんだよ。
叫び悶える俺。
「長い長い! ちょっ、止めてくださいよ! もういいでしょ!」
「やっべ、止め方分からねえ。おほほほほほ」
「このっ……! 今すぐやめやがれ!」
そして興味津々の生徒たち。盛り上がる教室。にやにや顔の青ヶ氏。ふざけんなお前なんだその顔。
「くそ! つうか他にも流せるのあったでしょ! なんでこんな……あーマジでしんどい!」
「あー、わたしの恋はー」
「松田聖子出てくんな!」
嘆く俺に青ヶきはるは悪気ない様子で楽しそう。あーもうこれどう言い訳するんだ。あとなんなの昭和歌謡曲のくだり。
「いやだって、綺麗に出力が出来たのがここだってもんですから……あと面白そうでした」
「このくそ小学生が!」
無理矢理ヘッドフォンを取って青ヶ氏のパソコンを止めようとした。が、時すでに遅し。もう映像は佳境に入っており、バッチリとその内容が教室内に大音量で流れてた。
やめてマジで見ないで。
――す……
――す……?
――す、す、す……
――あははっ。あれあれ、とーやくんも言えないのかよー!
――……き
――あはは……え?
――その、だから
――う、うん
――すきだよ、なっちゃん
――え、え、あ、えと……それって……
――うん本当だよ。遊んでて楽しいし。ゲーム上手いし、あーでもリフティングの時は邪魔してくるの嫌いだけど。アイス奢ってくれる時はすげえすきだ
――うん?
――え?
――…………ほ、本気で言ってる?
――まあ
――……にぶちん
――え
「ぼりぃ!(奇声だよ)」
酷かった。この忠実な再現っぷりはもう奇声しか出なかった。科学技術のバカ。てかなんで夢見たとこより先出てんだよ。思い出さないようにしてたのによ。ふざけんな。
「あはははっ。はーい、ここで終了です。ふう。これめっちゃ凄くないですか、この出力技術。まさに革命ですよ。ちなみに特許出願中ですので承認されるまでお待ちを。ねえ、だーりん」
「うるせえ! 俺の恥ずかしい恋物語がだだ漏れになっただけじゃねえか!」
「ぷっ、"にぶちん"」
「何笑ってんだこのクソガキ!」
……こうして、俺はこの時決めたのだ。俺はもう、授業を抜け出さない事と過去は振り返らない事を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます