第10話「知らなかった」

「そう思ってたんだね。私全然知らなかったよ」

 私の告白から数秒、驚きのあまり黙っていたのだろうあげはが、改めて話し始める。どこかすっきりした顔で、笑みすら浮かべているのは、どうしてだろうか。

「私ね、優花はもう私に呆れて、できることなら早くにでも追い出したいのかなって思ってた」

 そうか、私の言動はそう思わせていたのか。それとも、初めの同居までの流れがいけなかったのか? どちらにせよ、それは全くの誤解で、私はあげはのことはむしろ好きなんだと思う。でなきゃ、ここまでして止めていないだろうし、何よりいない生活の方が今は想像できないのだ。故に、出ていくなんて、絶対に許さない。

「私はさ、本当のこと言うと住まわせてもらうより前から、優花のことが好きだったんだ。仕事にいつまでも慣れない私に、ずっと教えてくれたのは優花だけだったし」

 そういえば、そうだったかもしれない。みんな自分のことに忙しかったのもあるだろうが、最後まで付き合っていたのは私だけだった。

「だからさ、両想いになれたんだって思うと、すごく嬉しい。そうじゃなくても、ずっとここにいてほしいなんて、願ってもないことだ」

 そう言ってあげはは、私の手を取る。

「こちらこそ、これからもどうか一緒にいさせてください」

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