第9話「例えば」
「例えば、例えばだよ」
静流は私のパジャマを掴んで話し始める。一緒に寝るようになってしばらく経ったある日、いつも通り布団に入って寝ようとした時の事だった。二人で寝るのに慣れたのもあって、驚きのあまり返事をし忘れてしまう。
「例えば私の目が明日、急に治ったとしたら、それでも依子は居なくならない?」
私が寝たものと思って話しているのか、それとも起きていて、聞いていていいのだろうか、いまいち判断がつかずに黙ってしまう。しかし答えは一つだ。私が静流の元を離れるなんて、死ぬ時くらいだ。どちらかが先にそうなるまでは、少なくとも私は離れるつもりなどない。
「分かってる。依子が私を大事にしてくれるって事。依子は優しいからね。でも、私が何ともなかったら? 百合音の友人をただ紹介されただけだったら? それでもこんなに近付けたの?」
それは、どうだっただろう。ただの友達と、こんな風に同じ布団に寝られただろうか。多分そうなるにはかなりの時間と相性を要するだろう。そういう意味では、盲目を優しさの要因に考えるのも、納得が行く。
「私は、依子に恋してるのに、依子は……依子の愛は、慈愛だよね」
慈愛。弱いものを慈しみ、愛する事。私の愛は、そう思われていたのか。ただの優しさで、誰にでも手を差し伸べるような、そんなものだと、思われていたのか。
違う。最初から違うとは言えないかもしれないが、今はもうそんな思いなどではない。そんな優しさだけの愛ではない。私は、いや私も、静流に恋をしていたのだ。好きなんだ。
私は、そう伝える代わりに、強く静流を抱きしめる。
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