第8話「いらない」

「澪ちゃん、昨日はご飯、後輩の事食べたんだね。急だったからどこいったかと思った」

 朝早く出勤すると裕美は、まだ誰も来ていないことをいい事に、そんな事を軽く言ってのける。私が、そんな彼女の一挙一動で、どんな思いをしていると思っているんだ。昨日の子達の反応を思い出しては、怖くなる。広められたらどうしよう。厳重注意だけで済んでも、きっと白い目で見られる。そしたら、私は耐えられるだろうか。

「もう、ふざけた恋人ごっこなんてやめましょうよ。女同士で、良く考えれば何が楽しいのかサッパリです。こんなまやかしの恋愛ごっこ」

 言ってやった。全部、全部言ってやった。これで、もう細かい憂いも全部無くなるはずだ。あの子達がこの現場を見ている訳では無いが、多分すぐに広まるのだろう。仲がいいという噂があそこまで行ったくらいなのだ。大丈夫、これで、平和な職場が帰ってくる。

 帰ってくるはずなのに、私の胸は、何か得体の知れない感覚にグッと締め付けられる。苦しい、どうしてこんな、苦しいんだろう。

「そっか……ごめんなさい、無理をさせてしまって。これからは気をつけるわ、澪さん」

 澪さん。そう、いつも皆に話しかける時の業務的な口調で言われた事が、何よりも苦しかった。こんな気持ち、早く消えてしまえばいい。

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