第8話「いらない」
「澪ちゃん、昨日はご飯、後輩の事食べたんだね。急だったからどこいったかと思った」
朝早く出勤すると裕美は、まだ誰も来ていないことをいい事に、そんな事を軽く言ってのける。私が、そんな彼女の一挙一動で、どんな思いをしていると思っているんだ。昨日の子達の反応を思い出しては、怖くなる。広められたらどうしよう。厳重注意だけで済んでも、きっと白い目で見られる。そしたら、私は耐えられるだろうか。
「もう、ふざけた恋人ごっこなんてやめましょうよ。女同士で、良く考えれば何が楽しいのかサッパリです。こんなまやかしの恋愛ごっこ」
言ってやった。全部、全部言ってやった。これで、もう細かい憂いも全部無くなるはずだ。あの子達がこの現場を見ている訳では無いが、多分すぐに広まるのだろう。仲がいいという噂があそこまで行ったくらいなのだ。大丈夫、これで、平和な職場が帰ってくる。
帰ってくるはずなのに、私の胸は、何か得体の知れない感覚にグッと締め付けられる。苦しい、どうしてこんな、苦しいんだろう。
「そっか……ごめんなさい、無理をさせてしまって。これからは気をつけるわ、澪さん」
澪さん。そう、いつも皆に話しかける時の業務的な口調で言われた事が、何よりも苦しかった。こんな気持ち、早く消えてしまえばいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます