第7話「恐れていたこと」

「ねえねえ澪ちゃん、お昼一緒にどうかな」

 お昼休憩の時間、私が裕美がいつも用意する弁当を片手に席を立つと、声をかけてきたのは裕美ではなく、同期の女子だった。弁当を作らせてしまっている手前、裕美と一緒に食べない訳にもいかないが、かと言って断ってしまうのもなんだか邪険にしているようでなかなか出来ない。結局私は普段から裕美とは一緒に食べているからと同期の子と食べる事にした。

「いやまあ、急に誘っちゃって、何もなしって訳でもないんだよね。ちょっと澪ちゃんに聞きたいことがあって」

 あまり話したこともない子だったから、まあそうだろうなと納得しながら、弁当をつまむ。

「裕美課長とは、どういう関係なの」

 どういう関係、その問いに、私はすぐに反応できなかった。ただ否定すればいいのに、私はどういう訳か、否定も肯定もできず、かと言って流すように弁当を食べ進めることも出来ず、どっちつかずな反応で停止してしまう。

「そのお弁当も、今朝裕美課長が澪ちゃんのロッカーに入れてたのだよね。見てたんだ。いや、だからなんだって話なんだけど」

 私がいくら静止し続けても、彼女の話は続くようだった。全く、見られるようなら止めておけば良かったのだろうか。

「まさか、澪ちゃん、裕美課長と付き合ってたりする?」

 核心に触れた彼女の言葉に、私は勢いのまま机にダンと手をつき立ち上がり、彼女を見据える。が、そこから何か出来るわけでもなかった。当然だ。今の反応こそが、最大の肯定なのだから。ゆっくりと座り直すと、その子はそうなんだ、と、あまり驚きもせずにつぶやく。

「いや、明確に付き合ってるとは言えないんだけど。裕美課長も愛はないって、言ってたし」

 弁解のつもりが、ただの言い訳になっていることに気づくが、取り消すことも億劫だった。

 そうして、私と裕美の未来は、同期の彼女に握られてしまった。

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