第6話「本命チョコ」

「皆、ハッピーバレンタインということで、チョコを配りたいと思います」

 にこやかに袋を掲げ、部下たちに宣言する裕美は、私を一瞥すると不意に皆に見せるのとは別の笑みを浮かべる。こう、いたずらっぽいというか、含みのある笑みだ。まさか私が作ってみたチョコの事に、気付いているのだろうか。

 いや別に裕美を思って作った訳では無いし、一人分しか無いのは、知っての通り料理は経験不足だからだ。要は失敗を重ね過ぎたのだ。気付けば材料が一人分しか残らなかった、という結果である。

「澪ちゃん、今日もお昼は二人で食べようか」

 私の机に、皆と同じようにチョコを配ると、そう呟いて他の人の元へと配りに行く。周りを見ても、何の変哲もない皆のと同じチョコだ。なんだ、あんなに好きだ好きだと言うのに、チョコは他と同じなのか。

 今私、嫉妬した? いや、まさか。そんなはずはない。私は、裕美に付き合っているだけで……。


「はい、本命用のチョコ。流石に人前で渡したら、皆がどう思うか分からないからね」

 私はそのチョコを素直には受け取れなかった。子どもっぽく頬を膨らませ、黙りこんでは困らせる。

「あるならそう言ってくださいよ」

 あまり黙っているのも辛いので、素っ気なくそう言って私からもチョコを押し付ける。本当に恥ずかしい。

「もしかして、これも本命?」

 私のチョコを受け取ると、裕美は嬉しそうに聞いく。そんなつもりはなかったが、否定するのも無理な話だった。裕美のを期待してたし。

「まあ、そういうことにしてもいいですよ」

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