第5話「満更でもない」

「今度の休み、何処か遊びに行かない?」

 昼食中、私は裕美のその提案に、箸を取り落としおかずを喉に詰まらせてしまった。

「な、なんですか急に。とうとう隠す気も無くなりましたか」

 私の反応に心配する裕美をよそに、私はできるだけ冷たくそう返した。落ち着け、最近接禁しすぎているせいで歯止めが利かなくなっているだけだ。落ち着いて切り抜ければ考え直してくれるはずだ。

「いや、うーん。逆に澪ちゃんは行きたくないの?」

「そういう訳では無いですけど!あっ」

 裕美の問いに対してのあまりの即答に、一番驚いたのは自分である。いや、たしかに嫌ではないし、社内恋愛禁止だとか変なしがらみがなかったのなら、私は一緒に出かけてもいいと思っている。しかし、それはあくまで許容であり、願望ではない。そう思っていたのだが。

「もしかして、一緒に行きたかった? もう、澪ちゃんは素直じゃないなぁ」

 私の食い気味な返答に、裕美はニヤニヤと笑みを浮かべながら私を茶化す。本当に最近は彼女のペースに飲まれてしまっている。私は、もはや掌握されているような感覚だった。

「澪ちゃん、一回だけでいいから出かけよう」

 裕美は、改めて私にそう聞く。素直に言うことを求めるようなその言葉に、私は観念してため息とともに、返す。

「分かりました。今度、行きましょう」

 私がそう話すと裕美は嬉しそうにはにかむ。

「楽しみにしてるね!」

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