第8話「もう一人でも」
「ああ、はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
休日の昼下がり。特にやることもないので何となく読書を始めたのだが、あげはは誰から来たのだろうか、電話を受けて話し込んでいた。敬語で話している上、一喜一憂しながらも最後には感謝で締めくくっていたあたり、仕事の依頼か何かでも来たのだろう。気になって見ていると、笑顔であげはが私のほうに寄ってくる。
「何かあった?」
私が聞くと、なにやら嬉しそうに抱きついて話し始める。
「私の創作技術が評価されて、有名な歌手さんのアニメーションPVの制作を依頼されました!」
アニメーションPV制作、というと、映像構成に、イラストの画力が必要なのだろう。多岐にわたる創作活動をしていると言っていたが、本当に凄いなと、改めて思う。
「まだ詳しい話は決まってないし、あまり詳しい事は内密にと言われていたから、何も話せないんだけどね。これで依頼が増えたら、収入も少し増えるかな」
ふむ、それはいい事だ。養っているような今の状況では、どこか引け目を感じている様子も稀に見られたのだが、これからはそういったものもなく仲良く過ごせるかもしれない。そう思うと、私も素直に喜べる。
「おめでとう、今日はお赤飯かな」
私が冗談めかして言うが、あげはは私の思惑に反して、その表情は曇っている。
「これで、もう一人でも大丈夫だと思うからさ、もう少しして依頼が増えるようだったら、出ていこうと思う」
その言葉に、私は動けなくなった。
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