第6話「勤労チョコ?」

『今日は絶対に定時で帰ること!』

 ある日の午後、昼食をとりながらスマホを見ていると、あげはからそんなメッセージが送られてきた。はて、今日は何かあっただろうか。その事を考えながら午後を過したが、結局思い浮かばなかった。

「ただいま。希望通りに定時で帰ったよ」

 元々そんなに仕事を溜め込んで残業するタイプでもなかったので苦でもなかったが、改めて頼まれると何が目的だったのか、気になってしまう。

「お待ちしておりました。ところで今日はなんの日でしょうか?」

 そう言って楽しそうに出迎えるあげはを見るに、なにか特別な日だったのだろうが、私には身に覚えがない。二人の同棲記念日はもっと後だし、誕生日も違う。付き合い始めたのも半年は後だ。

「もう、仕事のし過ぎはイベントに乗り遅れるぞ。お店とか見たら気付くものじゃない?」

 呆れかえりながらあげはは小包みを私に差し出す。その瞬間、私はハッとして思い出す。

「バレンタインか! すっかり忘れてた」

 そして、すっかり忘れていた為に、あげはに渡すチョコも買ってない。これは、愛情不足と言われても文句は言えないな。

「まあまあ、定時に帰ってきてくれただけで充分だよ。代わりに私が勤労チョコと題して、優花をいたわってあげる」

 机に並べられたのは、前に食べた時以上に上手になっている料理たち。私は、あげはの優しさとその努力に、感謝を伝えずにはいられなかった。

「ありがとう。あげは」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る