第5話「蝶は花の蜜を吸う」
「夢を叶えるまでの稼ぎ口にしたくてね」
休憩室であげはが語ったのは、夢の話だった。叶えたい夢、でも、すぐには叶わないし稼げないから今は頑張っていると。それで、頑張っても中々仕事に身が入らないと。
しかし、どうしたものか。それを聞かれてどうにかできる私でもない。神でもなければ私はただの人なのだ。万能の超人ですらない。
「今クビになったら身寄りもないし、大変だなぁ。頑張らないと」
その一言に、私は少しの硬直の後、彼女を凝視する。おそらく意図していないだろうが、どうしてこう、人のすきに入るのがうまいのだろう。それとも私がちょろいのだろうか。とにかく、20そこらの女性が路頭に迷うのは良くない。同じ歳のよしみでもあるし、隣のよしみ、夢を打ち明けてくれたよしみもある。よしみまみれだ。とにかく、目の前の彼女が底まで落ちるのだけは防いであげたかった。
そう思い、改めて考え直すが、一度考えて無理だったことだ。二度考え直しても流石に思いつかなかった。
私が損をする方法以外は。
「あげは、クビになるまでは頑張って貰うけど、もし路頭に迷うことがあったら私を頼りな。あげはに蜜をやる花にはなってあげる」
その時は、それでも彼女の頑張りに期待していたのだ。故に軽く言ったのだ。なのに……
「本気でクビになるとか本当に好きなこと以外出来ないのね。だらしないの」
私の家に彼女がいるのはそういう事であった。めでたい事にクリエイターとしての仕事をいくつかいただけているので、まだマシだが。
「ま、寂しくなくていいでしょ?」
あげはのこういうちゃっかりしたところは、少しは見習った方がいいかもしれなかった。
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