第4話「休みの日には芸術を」

「依子、絵を描かせてくれない?」

 在宅ワークも何も入れず、特にすることもない休日。静流はふとそう私にお願いする。確かに絵を描く道具はある。絵の具も筆も、パレットもあるし、確か、画用紙もあったはずだ。しかし、盲目の静流に何か、描けるのだろうか。

「いいけど、何を描くの?」

 私は道具を準備しながら聞いてみる。風景はまず無理だろう。見えない上に、細かくて流石の静流でも、器用に描くには無理がある。見えなくても平気、となると、幻想画というのだろうか、そういう類のものが連想されるが、果たして。

「依子の顔を描きたいの。こっちを向いて」

 私が準備した筆を置くと、その筆を見つけるがすぐに取らず、まず私の顔に手を伸ばして指で肌を撫で回し始めた。まさか、凹凸の加減を見ているのか。

「よし、描こう」

 画用紙に筆を滑らせるその足は早く、勢いがあった。本気で、撫でた顔の凹凸で描きあげる気なのだ。予想以上の静流の力に、私はその絵を見つめることしか出来なかった。

「やっぱり、依子は綺麗だね」

 描きながら、静流は私にそう微笑んでくれる。レーダーのように感知し、頭の中で思い描く私の顔を、好んでくれることが、嬉しかった。

 それから数時間、私の似顔絵は、色つきで完成した。こればっかりは静流に無い概念なので、私が自分の顔を見ながら色を調整した。

「なかなか自信作。ありがとう、依子」

 その絵の私は、少し歪だったけど、とても可愛く笑っていた。

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