第3話「思い出すためのツール」
「静流は、思い出をどうやって保管するの」
私は、ふと興味本位で聞いてみる。私は、というより私のように目の見える人達は、アルバムを使えば容易に思い出を保管できる。でも、見えなければ? そもそも目からの情報がないだけで記憶はあやふやになるのに、アルバムも無いのでは、過去をどう思い出せようか。
「におい、肌を触る感覚、音、全部を頼りにしてる。それでも、それを保管できないから、忘れるけどね。その時は、また経験すればいい」
何度でも、経験して、記憶に刻み付ける。静流は、そうして思い出を重ねてきたのだった。それは、何となくロマンチックで、それでいて確かなものだった。
「私とも、そんな思い出を重ねてくれる?」
私と静流は、互いの友人である百合音が繋いだだけの、まだ短くて浅い関係だ。共有した思い出も少なく、きっと、いずれ消えてしまうかもしれない。それが寂しくて、私は甘えるように静流に問いかける。
「もちろん。ずっと一緒にいてくれて、こんなにも想ってくれるのは、後にも先にもきっと依子だけだから」
そう言って、静流もまた私に甘えるように寄りかかる。その重みが、とても嬉しいし、それに、安心する。静流は私の事を心から頼ってくれるのだ。これ程嬉しいことは無い。
「ありがとう。静流」
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