彼らが愛した俺 お題:「彼が愛した俺」

 銀野(ぎんの)義隆(よしたか)が、雁眞之高校の北西に建っている体育倉庫の裏に着いたのは、昼休みが始まって、五分ほどが経過した頃のことだった。賓野(ひんの)造隆(ぞうたか)は、それから十分ほど遅れて、現れた。

「せっかくの昼休みだってのに、こんな所に呼び出して……いったい、何なんだよ、話って?」

 賓野は怪訝そうな顔をしていた。また、不機嫌そうでもあった。

「大事な話なんだ」銀野は真剣な顔をして言った。「このまま、あやふやというか、はっきりさせないままで、卒業まで過ごそうか、とも思ったが……」一拍、置いた。「やっぱり、こういうのは、明確にさせたほうがいいと思ってな」

 賓野は明らかさまにいらつきながら言った。「だから、何なんだよ、話って?」

 銀野は、軽く息を吸い込み、吐き出してから、言った。「お前……俺のこと、好きだろ?」

 沈黙が発生した。それを打ち破ったのは、賓野の、「そうだ」という、肯定だった。「そのとおりだよ。好きだとも」

「そうか……」銀野は、ふう、と息を吐いた。「……どのくらい、好きなんだ?」

「どのくらい、って言われても、困るんだが……そうだなあ……」賓野は腕を組んだ。「ただ単に、好き、ってわけじゃない。愛しているよ。幼稚園で出会った時から、今まで、ずっと。できるものならば、結婚したい、と思っているし、一緒に子供を育てたい、とも思っている」

 銀野は思わず、ふふ、と苦笑した。「お前……本当に、俺のことが好きなんだな」

「もちろんだ」賓野は頷いた。「それを、はっきりさせたい、だなんて……もしかして……いや、やっぱり──銀野、お前も、俺のことが、好きなんだな?」

「ああ」銀野は首肯した。「お前は、さっき、俺のことをどれだけ愛しているか、語ってくれたが……それに負けないくらいの、強い想いを抱いているよ」

「なるほどな」賓野は右頬を、ぽりぽり、と掻いた。「じゃあ、同じ思い、ってわけだ」

「そうだ。それをはっきりさせたかった」

 再び、沈黙が発生した。しかし、今度のそれは、三秒と経たないうちに打ち破られた。

「銀野ー! 賓野ー!」

 そんな、アニメの美少女キャラクターじみた、可愛らしい声が聞こえてきた。そちらに、視線を遣る。

 俺(おれ)望(のぞむ)が、右手を振りながら、とたとたとた、と、こちらに駆け寄ってきた。いつもどおりの、整った、愛くるしい顔立ちをしている。知らない人に、アイドルグループの一員なんですよ、と説明しても、まったく疑われることなく、納得してくれるだろう。

「えと……ごめんね、三階の廊下の窓から、二人の姿が見えたから、思わず、来ちゃったんだけれど……」俺はばつの悪そうな顔をした。「話の邪魔、しちゃったかな?」

「いいや」賓野は首を横に振った。「ちょうど、終わったところだよ、話」

「そうなんだ」俺は、ほっ、としたような表情になった。「じゃあ、ちょっと、付き合ってくれないかな?」顔が、ぱあっ、と明るくなった。「クラスのみんなで、校庭でバスケしよう、って話になってるんだけど、人数、足らなくて」

「もちろんだ」銀野は頷いた。

「じゃ、早く行こっ!」

 そう言うと俺は、てってってっ、と、校庭に向けて駆けていった。銀野と賓野も、「おいおい、待ってくれよ」「はは、せっかちだなあ」などと言いながら、その後を追っていった。

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